軍隊駐留の経済効果と航路
勿論、警備に必要な兵力は必要だしその分は仕方ないと鯉之助も思っている。
しかし、目の届かない場所に軍隊を置いていたら現地で暴走、張作霖爆殺や満州事変を起こしかねない。
それ以上の兵力は金食い虫、日本から富を奪う壊れた水道管だ。
一個連隊の維持に年間三〇万――21世紀初頭の金額で三〇億程掛かる。
それが、駐屯地の周りにばらまかれる。
国内なら産業振興になる――実際連隊設置を懇願する自治体が多数存在し誘致のため五万円、現代に換算して五億円も寄付金まで献納した所もあったほどだ。
それほどまでに産業振興として軍隊は役に立つ。
だが、国外に置いたら富の流出だ。
アメリカが思いやり予算を千億単位で出せと言ってくるのも、これが理由だ。せめて日本人従業員の給料ぐらいは日本が出せというのだ。本当に使われているかわからないが。
それはさておき、国外に部隊を多くだすことに鯉之助は反対だ。
「国内に軍隊を置いておくべきです」
軍隊を維持したいなら国内に配置すべきだ。
「財政担当としても賛成です。国庫から出せません。また、大量の兵力が徴兵されるのは国内の労働力が減少するため、税収の減少が懸念されます。軍縮は行うべきですし、大陸への駐留は止めるべきです」
大蔵省にも言われては陸軍としてもどうしようもなかった。
それでも負けん気の強い軍隊らしく主張する。
「だが、万が一戦争になった時、初動が遅れる」
「そのために日本本土から大陸へ部隊を輸送できるよう、船舶保有量を増やすべきです。特に大陸との航路を増強します。この航路で平時は物流が盛んになり国の富は増えていくでしょう。そして戦時には容易に軍隊輸送に転用できます」
鯉之助は理路整然と反論した。
予め、航路を作り船を配備し商用で航行させれば問題ない。
それに航路があるなら貿易が活発になり国内の産業が振興される。
そうやって国力を増強すれば良い。
貿易が盛んになれば、いずれは輸送力増強の為に新たな船が投入され更に儲かる。
それらの船は戦時には軍隊輸送に容易に転用可能だ。
しかも増強された分、輸送できる部隊の数は増える。
結局、戦時の役に立つのだから、インフラ整備に金を投入した方が良い。
「だが民間に任せると脆弱になるのでは」
だが陸軍は民間に任せるとコストを抑えるために、貧弱な施設を作らないかと心配だった。
「日常的に利益を出すようになれば、維持しようという考えに至ります。簡単に壊れたりして使えなくなれば利益が出ません。定常航行の為に、嵐で壊れないよう設備投資を行うでしょう」
民間企業は利潤を追求する。
そして利潤の為ならば安定して収入が得られるのであれば、利潤内とはいえ、設備投資を行い、安全を確保する。
新幹線が良い例だろう。
JR東海は東海道新幹線で大きな利益を生んでいるが、その東海道新幹線を維持する為に多大な設備投資を行っている。
車両の更新のみならず線路や橋脚の保線にも気を遣っている。
そのため、定時運転率が一分以内、台風による運休を含めて極めて低い数字になっている。
船だとそこまで低くは出来ないが大型船の投入や、航路の整備、灯台の設置や誘導装置の設置、気象台整備による天候監視をおこなう。
こうやって航路を整備し定時運行を目指すようになる。
これは戦時の安定的な輸送に寄与する。
だが、それでも陸軍は納得出来ない。
「日清戦争いや、維新以来苦心して作り上げた軍備を放棄するなど出来ない」
陸軍としても軍縮に反対だった。
平時で十分な数を得ているが、戦時に膨れ上がった師団と戦功で昇進させた高級将校のポストを維持する為にも現状で維持。出来れば更に増強したかった。
だが、陸軍の将軍連中の為に軍縮が出来ない、予算をつぎ込むことなど許されない。
鯉之助は反論する。
「では、維持したとしましょう。何に対して戦うのですか」
「ロシアの復讐戦に備えなければ」
陸軍としては当然だろう。
勿論史実でも同じ動きがあったので鯉之助も知っている。
だからこそ、叩き潰すための考えを持っている。
「ロシアとは不戦協定を結んでいます。また日露の間で協商、いずれは同盟に発展させることも考えています」
「馬鹿な、そんな事が出来るのか。信用ならんぞ。交渉が出来るとは思えない」
「いや、ロシアの方々は、中々、話しの分かる人物じゃきに」
朗らかに言って入ってきたのは坂本龍馬だった。
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