陸軍の改革
「今回の戦いでもギリギリの戦いだった。特に前半では動員兵力が足りず戦場で兵力が劣勢となり苦戦した」
実際、兵力が足りなくて苦戦した戦場は多い。
「今、兵力を削減するのは認められない」
現状での兵力は大陸だけで百万を超し、日本陸軍の総兵力は一五〇万近い。
現役の歩兵師団だけで一六個。他にも海兵師団や山岳師団が戦時増強で三個ずつ増設され、近衛師団さえ戦時と言うことで増設されかけていた。
その膨大な兵力を削減する事になる。
「十分な戦力は残してありますが」
鯉之助の案では陸軍は国内に戦前と同様、歩兵一二個師団に加えて近衛、海兵、騎兵、山岳、樺太の十七個師団。
さらに海外派遣軍として台湾軍二個師団、韓国駐箚軍二個師団、満州駐留軍三個師団、沿海州軍二個師団を配備。
派遣軍の内、一つないし二つの師団は外人部隊で構成する。
平時で合計二六個師団、五〇万人。
戦時動員した場合、各師団が予備役を含め増強され、師団も増設されることにより、五〇個師団二〇〇万になる計画だ。
史実以上の戦力だが、内実は日露戦争前とさほど変わらない。
海外駐留部隊は国内各連隊から一個大隊ずつ新たに編成し何処かの駐留部隊に派遣。他の大隊と連合部隊として、戦時に何処の部隊が派遣されても現地に詳しい下士官兵を置くことで対処できる様に維持している。
今回の戦争で増設した第一三師団から第一六師団は一部が駐留部隊改変されるとはいえ事実上、無くなる。
この戦争で動員して予備役や後備役で作り上げた師団や、増設した海兵師団や山岳師団も予備指定、司令部の基幹要員を除き多くの兵士が復員されて休眠状態となる。
また海外派遣軍の中には多数の外人部隊がいる。
日本国内から労働力を過剰に徴兵しないため、また現地の住人を受け入れて統治に役立てるために設けているのだが、もう一つ目的がある。
アジア独立の為にアジア各国の独立派を受け入れ、訓練するためだ。
各国植民地が独立できるよう、また、中国が力を付けることが出来るようにアジア各国の人々が入れるようにしている。
特に中国方面や韓国には多数の部隊を駐留させている。
すぐには無理だが、いずれアジア各国の独立派が連携して欧米諸国から独立する動きが出てくるハズだ。
そして独立してくれれば、日本の有力な同盟国となる。
明治維新は、世界史的に革命的な出来事でありアジアの中では、タイなど少数を除き日本だけが欧米化に成功した希有にして唯一の例だ。
そのため日本には他の有力な同盟国や友好国がアジアにいない。
明治初期に中国、朝鮮と同盟しようとしたのは、協力して欧米の侵略から身を守るためだ。
だが中国は清王朝が衰退期になってあてにならないし、朝鮮は冊封体制にどっぷり浸かり、意識改革が出来ていなかった。
結局日本が単独で明治維新を、欧米化を成し遂げるしかなかった。
成功しても、日本と同等な国がないため戦争にもならなかったが、同盟国も得られなかった。結局欧米と近づくしかなかった。
それが太平洋戦争へ繋がったと鯉之助は考えている。
元々海援隊の中で、強い欧米への抵抗意識のある組織の中で育っており、欧米の植民地支配を鯉之助は腹立たしく思っている。かなり過激だだが、太平洋戦争後のアジア独立を見ている事もあり、当然と思っている。
アジア独立のためにも外人部隊を置いておいたのだ。
いずれ独立が果たされれば、このような部隊もなくせる。
閑話休題、現状の計画でも日本には過剰すぎる軍備だ。
これも減少させて、軍事費を国力増大へ向けようというのだ鯉之助の考えだ。
だが兵力を削減される陸軍は気が気じゃない。
「それでもロシアに対して平時の兵力が足りなすぎる。ロシア軍は二〇〇万の総兵力を持っている。戦時への転換中あるいはその前に奇襲されれば、兵力差の前に敗北は免れない。大陸にもっと兵力を置いて貰いたい」
半世紀後ならば彼の意見は正しい。
僅か数日で戦局が動く時代では初期の軍備が物をいう。
最初から兵力差で負けていては勝ち目はない。
しかし、今は1905年だ。
「それだけの軍備を平時から大陸に置いておくことは出来ません」
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