鯉之助とゲオルギーの会談

 寒風が強まる中、日露の二人は中間地帯、日本軍とロシア軍の中間点で会うことになった。

 互いに鉄道線への攻撃を止めていたため、後々補給に使う事を考えていたためレールの周りだけは損害は少なかった。

 そのため会談場所と決められた。

 二人は互いに旧線の白旗を掲げた従者と随員を連れて向かう。


「日本国全権代理の海援隊中将才谷鯉之助です」

「ロシア帝国極東総督ゲオルギー・アレクサンドロヴィチです」


 二人は敬礼をして自己紹介を終える。


「私はロシア皇帝より極東における権限、日本側とも交渉出来る権限を持っています。外務省を通じて行わないことにご不満があるでしょうが、どうか緊急事態である事を配慮して貰いたい」


 外務省以外で外交交渉が行われる事はない。

 他の官庁が行うとなればその国は、属国と見なされかねない。

 日本がロシアに反発した理由も、極東総督府がロシア外務省に代わって極東の外交、日本との交渉を行う権限を与えられたからだ。

 日本がロシアの属国とみられてしまうからだ。

 日本も第二次大戦中、興亜省を作り、アジア各国との外交を行わせようとしたが同様の理由でアジア各国から抗議されてしまった。


「後日、外務省を正式な窓口とする事を約束します」

「自分は日本政府より交渉の権限を与えられました。信任状は現在東京から輸送中で後日提示します」

「分かりました。では事前協議、この協議が本交渉に繋がると考えて宜しいでしょうか? まあハーグでたたき台が出来ていますが、それを元に話し合いましょうか」

「同意します」


 既にハーグにいるウィッテと龍馬が細部を詰めている。

 あとはゲオルギーと鯉之助が話し合うだけだ。


「現時点で停止し停戦する、と言う条件でどうでしょう?」


「合意する」


「戦後の処理ですがロシアは朝鮮半島を日本の勢力圏として認めましょう」


「感謝する」


 日本の安全の為に、朝鮮半島を確保するために行った戦争だ。

 朝鮮半島を確保出来ないのでは話にならない。

 ゲオルギーも分かっていて明言した。


「占領地に関してですがカムチャッカとオホーツク海沿岸部の日本軍占領地を割譲する。ただ沿海州は返還してもらいたい。また賠償金は支払わない」


「認められるか!」


 日本側随員の一人が激しく怒った。


「日本が多くの将兵の地を流して手に入れた土地であり、返還出来るか。また賠償金を得られないのは認められない」


 三〇億、通常の国家予算の七年から十年分の予算をつぎ込んでいる。

 しかも、消耗品の購入の為に外国から大量の購入まで行っており外貨が足りない。

 賠償金で補充しなければ金本位の崩壊、日本経済が破滅しかねない。

 


「代替条件として満州の利権も日本占領下に関しては日本側へ渡しましょう」


 ゲオルギーの一言で黙り込んだ。

 だが、鯉之助は渋い顔をした。

 現状では安達、大慶の領有が日露どちらになるか分からない。

 下手をすれば油田を巡って紛争が起きてしまう。

 せっかく止めた戦争なのに新たな火種を抱え込んでしまう。


「そう怖い顔をしないでください。代替条件はまだあります」

「代替条件?」

「きっと気に入ってくれますよ」

「条件次第でしょう」

「私から出すのは


 一つ、東清鉄道を譲渡、ただし羅津及び清津への延伸と一日に三本ロシア側の列車を通すこと。また積み荷の無関税。またロシア船籍および借り上げ船舶の二つの港の使用許可。

 二つ、今後100年間日本の所属航空機はロシア帝国上空を通過する事を許す。

 三つ、オレンブルクでの天然ガス及びその付属物の採取


 以上です」


ゲオルギーの出した条件に全員が無言となった。


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