ハーグでの動き
「安達で激しい戦闘が繰り広げられています」
「困ったことになった」
報告を聞いた龍馬は顔面蒼白となった。
これまで優勢だったが、ロシア軍が予想外に善戦している。
三倍もの兵力を投入して未だに撃破出来ないのはロシア軍の陣地による者だが、能力が優れていることを示している。
それは講和への機運が高まるには良いが日本側の損害も大きくなりつつある。
「このままでは、危険です」
龍馬の隣にいたウィッテもゲオルギーから送られてくる戦況報告を読んで困り顔をする。
戦争の早期終結のために会談をしているが、戦闘が拡大するのは拙い。
ロシア軍が善戦してくれているのは嬉しいが講和の切っ掛けが見つからない。
「ウィッテさん」
「何でしょうか龍馬殿」
「とりあえず、即時停戦という事でいいか? これ以上、戦争を続けるのは日露両国とも困難だ」
「構いません」
ウィッテは同意した。
今のところロシア軍は善戦しているが、圧倒的な兵力差の前に何時撃滅されてもおかしくない。
今のうちに停戦した方が良い。
「しかし、我々だけで決めて良いのでしょうか」
二人が会談しているのは表向きには毒ガスの使用制限の話し合いだ。
双方とも裏で講和の為の下準備を始めていたが、停戦のための権限など持っていない。
「ならば、権限を持つ人間同士にやらせれば良い。すぐに」
「そのような人間がいるのでしょうか」
「少なくともロシア側には、外交権のある人間が、日本軍のすぐ近くに居る」
「まさか」
「そのまさか。ゲオルギー極東総督にやって貰うんじゃ」
極東総督は極東における皇帝の代理として君臨している。
その権限は内政軍事のみならず、外交権、極東に関することに限定されているが与えられている。
「そんな畏れ多い。殿下にお任せするなど」
「じゃが、今、他に纏められる人間はおらんじゃろう。皇族でなければ誰も納得せん」
「確かに」
権限があり聡明で能力のある人間などゲオルギー殿下以外にウィッテは考えられなかった。
それにすぐに話しを纏めロシア国内を納得させる事が出来るのはゲオルギー以外にいない。
「ですが日本側は納得するのでしょうか。前線に交渉出来る人間がいるのですか? 権限は?」
ウィッテの心配はそこだった。
日本側に講和の権限を持つ人間がいなければ正式には締結出来ない。
ゲオルギーが合意したところで、相手に権限がなければ不成立だ。
再び戦争再開ということになりかねない。
「一人心当たりがある。少し頭に血が上っている状況なっちょるが、全権大使になれば頭も冷えるぜよ」
龍馬は笑みを浮かべたが、目は笑っていなかった。
好きかってして戦争を拡大した元凶に怒っていた。
「なに、権限に関しては東京にお伺いをして任命して貰えれば、すぐに終わるじゃきに。何なら、いま正式に講和をする必要はないきに。休戦だけ結んで改めて話しあっても良いじゃ」
「なるほど」
確かに全てを一度に終わらせる必要はない。
今は戦争を終わらせる、戦闘を中止させるだけでも十分すぎる。
「儂らは、ここでできる限り条件のすりあわせを行う。それを前線の担当者に伝えて改めて話し合わせる。それで十分じゃ」
「直ちに本国とゲオルギー殿下に伝えます」
「おう、此方も東京に伝える。その後再び会って条件のすりあわせを行うじゃきに」
龍馬とウィッテは、東京とサンクトペテロブルクにそれぞれ連絡を取り合い、戦闘を終わらせようと動き出した。
また、二人で必要な講話の草案、戦場で妥結するための文案の作成を始めた。
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