アレクセーエフ再解任
「アレクセーエフ総督。このたびの失態はどういうことだ」
サンクトペテロブルクの宮殿、皇帝ニコライ二世の前でゲオルギーはアレクセーエフを問い詰めた。
「日本が卑劣な手段を使ったため我が軍は敗退を喫しました。国際法に反するため日本に強く抗議を行っており……」
「最初に毒ガスを使ったのは我が軍だ」
ゲオルギーは各国の新聞をアレクセーエフの前に叩き付ける。
いずれもロシアのガス攻撃を非難する論調だ。
従軍した観戦武官、各国が交戦国の同意の下送られる情報収集を行う軍人達にも被害者が出ており、ロシアを罵倒する口調は激しい。
「アメリカでは間もなくガスで大量死した兵士や負傷した兵士の写真入りの記事も流れる情報が入っている。ロシアへの非難は高まる一方だぞ。外交関係でも問題が出ている」
新聞の上でも非難する論調が激しいが、外交の方ではもっと激しい事になっている。
観戦武官の多くは軍人だが、各国から送られてくる観戦武官の多くは、高級軍人、エリートであり貴族が多い。
彼らの身内は影響力が大きく、外交官にも知人親戚が多く、ロシア外交当局への抗議も激しい物だった。
「ですが悪逆なる日本を誅するためには、正義をなすために必要な処置だったのです」
「毒を使って何が正義か!」
ゲオルギーの隣に同席していたニコライ大公が吠えた。
前回の失敗を、アレクセーエフを追及しきれなかったことを教訓に、ゲオルギーが同席するよう求めたからだ。
国内外に知人が多く皇室のご意見番であるニコライ大公の口調は絶好調だ。
アレクセーエフを的確に非難する。
「古来より毒を使うのは暗殺者、悪逆なる者の手段! 大国であるロシアが使うべきではない!」
「ですが日本が卑怯な手段により我が軍を撃破している状況では毒ガス以外に方法はありません」
「日本の戦術と兵器が優れていたからだ」
軍人としての経歴のないニコライ大公だが彼以上に軍事に精通した友人は多い。
彼らの多くが現役将校や兵士達――身分にこだわらず友人のように付き合うニコライ大公の人柄を好む兵士が多く、率直に戦場での事を語っていた。
そのため前線からの情報はアレクセーエフよりニコライ大公の方が正確だった。
ニコライ大公の言うとおり、日本軍いや鯉之助の開発した新兵器が上であり、戦略も作戦も長けていて順調に勝ち星を取っていたのだ。
「長春も陥落し、ウラジオストックも包囲されている。しかもウラジオストックは陥落寸前だと聞くぞ」
ウスリー方面における日本軍の進撃も早かった。
今度は日本海方面で日本軍の上陸作戦が行われウラジオストック東側の海岸へ上陸。
朝鮮半島への道路、ウラジオストックの西側に防衛線を構築していたロシア軍は背後を突かれたためウスリー方面のロシア軍は敗退。
ウラジオストックは孤立した。
ロシア軍は要塞に立てこもったが、日本軍は周囲の高地、ウラジオストック全体が見渡せる重要地点を早々に占領。
砲撃観測拠点を設け、配備した重砲による絶え間ない砲撃をウラジオストック要塞に浴びせていた。
海上からの砲撃がある上、観測地点を確保したため、着弾も被害も日本軍は完全に把握している。
旅順以上の砲撃を浴びせられているウラジオストックの陥落は目前ではないか、という観測が出されていた。
「最早、アレクセーエフに任せる事は出来ません。極東総督からの解任を要求します」
「やむを得まい」
ニコライ二世は同意した。
これほどまでの失敗を重ねては更迭しなければならない。
「だが解任するとして、誰を後任にするのだ」
ニコライ二世は力なく尋ねた。
頼りにしていたアレクセーエフが無様な失敗をして窮地に立っており、身内のゲオルギーとニコライ大公に非難されている。
何もかも上手くいかず無気力になっていた。
「私が、このゲオルギーが後任として極東総督に」
「お前がか!」
ゲオルギーの言葉にニコライ二世はさすがに驚きの言葉を上げた。
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