E作戦 戦闘序列

「命令通り、営口へ部隊を撤退させております」


 児玉が不満そうに鯉之助に報告する。


「第一軍は奉天より朝鮮方面へ撤退中。ですが山岳部に防御陣地を構築し持久の構えを見せています。半島より鉄道線の敷設も進めており、補給に関しては無事に進んでいます。第二軍は関外鉄道を通じて山海関方面へ撤退中。第四軍は東清鉄道支線を使い営口方面へ。営口には指示通り、港を中心に半径二〇キロの防衛線を構築しており、ロシア軍が進撃出来ないようにしております」


 営口の陣地は広大な防衛線だが、中国人労働者を雇って大急ぎで作らせた結果何とか間に合った。

 陣地の構築と鉄条網の設置で少人数でも守れるようにされている。

 それに列車砲を配備しているため、支援火力は十分。

 有線通信も各所に設けており通信、支援要請も受け取れるようにしてある。


「また南山では防御陣地の再構築も行っております」


 旅順の入り口であり、緒戦の激戦地であった南山に再び防御陣地を建設している。

 万が一の時はここまで撤退する事を鯉之助が示し、備えるために指示したからだ。


「ありがとうございます」


 鯉之助は感謝を述べた。

 だがその態度に児玉の堪忍袋の緒が切れた。


「しかし、ここまで撤退する必要がありましたか?」


 殺意を込めて尋ねた。

 確かに、兵力は少なく、ロシア軍の攻撃の前に日本の満州軍は潰走した。

 だが、ここまで撤退する必要は無かったはずだ。

 防衛だけなら奉天の南側や、遼陽の北側にある防衛線の跡を使い守り切れたハズ。

 しかし、鯉之助は、営口まで撤退するように命じた。

 しかも、営口周辺さえ放棄しての事だ。


「到底納得出来ません」


 児玉としては何故、このような事を鯉之助がするのか非常に疑問だった。


「ロシア満州軍を包囲殲滅するためです」

「ですが、営口に籠もって撃退する事が出来るのですか」

「勿論、立て籠もるだけで殲滅出来るとは思っていません。作戦があります」


 鯉之助は自分の作戦を伝えた。


「大胆ですね……」


 作戦内容を聞かされた児玉は、驚いたが、次の瞬間には笑みを浮かべた。


「しかし、上手くいくのですか?」

「そのために、色々と仕掛けを施しています。上手くいかなくても力押しで行きましょう」

「まあ、ロシア軍が沿岸部にやって来たら十分に叩けますしな」


 児玉は承諾した。


「しかし参加兵力が凄い」


 E作戦 戦闘序列


 満州軍

 第一軍 半島北部山岳地帯

  近衛師団、第二師団、第一二師団、山岳第一師団、山岳第二師団、外人歩兵第一師団

  後備第二師団

 第二軍 山海関方面

  第六師団、第八師団、第一一師団、外人歩兵第三師団

 第三軍 錦州攻略部隊

  第二海兵師団、第五師団、第九師団

 第四軍 営口方面

  第一師団、第三師団、第四師団、後備第一師団、後備第三師団、後備第四師団

  第十師団、第一六師団、秋山騎兵集団、陸上艦隊、外人歩兵第二師団

 旅順守備軍

  南山守備隊――第一五師団、旅順要塞、後備第五師団

 ウスリー軍

  第七師団、第一三師団、第一四師団

 韓国駐箚軍

  後備第六師団、国民役第一師団、国民役第四師団(後備役を終えた三五歳以上の壮年の国民役で編成された部隊)

 戦略予備

  樺太師団、第一海兵師団(渤海にて洋上待機)


 連合艦隊

 第一艦隊 営口方面

  第一戦隊 第一水雷戦隊

 第三艦隊 錦州方面

  第一一戦隊、第一三戦隊 第二水雷戦隊、第三水雷戦隊

 第二艦隊 ウスリー方面

  第二戦隊、第三戦隊、第四戦隊、第四水雷戦隊


 他に内地には訓練部隊。

 オホーツクおよびアムール川を担当する北方軍がある。


「日本の総力を挙げて行う作戦です。決して失敗出来ませんので全ての戦力を投入します」


 鯉之助の言うとおり、事実上全ての戦力を投入するのだ。

 だが兵力が枯渇しているのは事実だ。

 現役を全て投入――特定の世代を全て投入する事は出来ない。

 戦時生産に影響が出るし人口ピラミッドが歪になるため、対象年齢を広げ国民役まで投入する羽目になっている。

 後方警備のみに充てる予定だが、当初の計画では国内防備のみで渡海させる予定はなかった。


にも関わらず史実と同様、渡海させているのだから日本の国力が限界に近づいている証拠であった。




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