ニコライ二世の歓喜とアレクセーエフの秘策
「陛下、どうかここで戦争を終わらせてください」
ゲオルギーはニコライに止める様に再び進言した。
「それはならん。日本軍は予想以上に弱体化していた。今戦えばロシアが勝てる。現に、快進撃を続けているではないか」
「しかし我々も戦える状況ではありません。革命は広がっており、国民の不満は高まってます」
「戦争で勝利すれば収まる。現に、戦勝を伝えて喜んでいるだろう」
ニコライの指摘は正しかった。
ロシア軍の勝利と反転攻勢の報道に国民は喜んでいた。
勿論、連戦連敗のロシア軍が勝利を収めたという話を国民は最初、信じなかった。
だが、外国の報道が、奉天まで押し返したことが流れると熱狂した。
奉天が奪回され更に南下したと聞いて、熱狂する。
それまでの革命機運は吹き飛んでしまった。
敗北により自分たちの生活は悪くなると思っていたところへの勝利。
日本に勝てば生活が良くなるという期待から皇帝を支持する声が上がっていた。
「ですが、講和交渉中に構成を仕掛けるなど騙し討ちに近いものです」
「違反ではないぞ」
確かに、停戦が結ばれた訳ではないので、攻撃をしても、勝利しても文句は言われない。
だが、心証が悪くなる。
特に、講和交渉前に住民虐殺の報道が流れたため、最近ロシア軍に対するネガティブなイメージが広まっており、各国の世論はロシアに厳しい。
特に英仏は、ビョルケ密約で悪化している。
勝利したとしても国際的な信頼性は低下すると考えた方が良い。
「ですが、進出距離が長いと、軍の統制が効きません。電信があるとはいえ、途中の中継が大変で有効な指示が出せません」
サンクトペテロブルクからシベリアを横断して通信をするのは大変だ。
電信は整備されているが、駅間のみで中継する必要がある。
サンクトペテロブルクからハルピンまでどれだけ中継が必要な事か。二十以上はあるだろう。
その間にミスタイプや転送の遅延、あるいは電信文を紛失して送られない事もあり得る。
とても遠くから命令を下せる状況ではない。
「ご心配には及びませんぞ殿下」
そこへ現れたのは元極東総督アレクセーエフだった。
「どういうことだ」
「かつて極東総督を務めたおりの部下が残っておりまして、彼らが海援隊の新兵器を見つけ出しました」
そう言って見せたのは無線機だった。
「無線がどうかしたのか?」
「これでサンクトペテロブルクから満州まで通信出来ます」
「本当か!」
当時の最新の無線機でも数十キロが限界だった。
勿論、大規模地上設備を使った太平洋横断通信は行われているが、そのような大規模施設建設の予算が作れなかった。
「ですが、この程度の大きさなら列車に乗せて輸送することが可能。全線の司令部へサンクトペテロブルクから指示を出せます。また、シベリア各地へ一斉に命令を伝達する事も可能です。このたびの攻撃成功にも、この新装置の活躍があっての事です」
「素晴らしいぞアレクセーエフ!」
ニコライ二世は手放しに喜んだ。
「これはロシアの大いなる勝利へ貢献する。アレクセーエフ、貴官を再び極東総督に任命する。満州を日本より取り戻し、ロシアの栄光を再び取り戻すのだ」
「陛下、お待ちください」
流石にゲオルギーは止めようとした。
「既に満州軍の総司令官はリネウィッチ大将に決まっています。また講和交渉も外務省で進めております。ここで極東総督を復活させ、指揮系統を混乱させるのは危険です」
極東総督は極東地域における皇帝の代理人、軍事どころか周辺国との外交も司る事になっている。
つまり、アレクセーエフが講和交渉に口出ししてくる。
ハッキリ言って邪魔でしかない。
「陛下、どうかご再考を」
「信賞必罰は国家の常。功ある臣を蔑ろには出来ない」
「ですが、このような役職は前線に再びの混乱を」
「くどい!」
ゲオルギーの意見は退けられてしまった。
「しかし、どういうことだ。どうして手に入れる事が出来たんだ。私なら無線の秘密を保全するのに」
アレクセーエフが海援隊から中波無線機を手に入れたことが気がかりだったが、難事が山積しており、深く考える事は出来なかった。
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