第一五部 ポーツマス講和会議
大勝利の後始末
「日本海海戦大勝利!」
「バルチック艦隊壊滅!」
「日本軍制海権を確立!」
「歴史的大勝利!」
「連合艦隊大金星! 佐世保に凱旋!」
日本海海戦――欧米では対馬沖海戦、津軽沖海戦と呼ばれる一連の戦いの歴史的大勝利に国民は喜んだ。
世界最強と恐れられたバルチック艦隊来襲に恐れおののいていただけに、予想外の圧倒的勝利を、歴史的勝利に湧き上がったのも無理もなかった。
「これで戦争は勝利だ!」
「ロシアなど恐るるに足らず!」
「このままロシア全土を征服だ!」
その反動で、興奮気味になり現実離れした言動が通るのも致し方なかったといえる。
戦争の実態を知らなかったからだ。
だが政府上層部は喜んでばかりはいられなかった。
海上は勝てたが陸上では対峙が続いている。そもそも、満州での権益を確保する為の戦いだ。満州で敗れては、半島で敗れては拙い。
直ちに、講和の為に、動くことにした。
「で、ロシアを講和の席に着ける方法はないじゃろうか?」
「いきなりな問いかけですね」
佐世保から東京へ列車で赴き統帥本部で日本海海戦の戦勝報告を行っていた鯉之助に龍馬は尋ねた。
「明日は、戦勝報告のため陛下の御前に立つというのに」
史上希に見る戦果であり、陛下の前で報告することが決まっていた。
「そんなこと、東郷さんに任せておけ。というか戦勝を生かすためにも戦争は終わらせんといかん」
「確かに」
日本の国力が限界であることは明らかだ。
海はともかく、陸の日本軍はこれ以上戦えないレベルまで疲弊している。
前線から兵力を引き抜き、後方で待機させないといけないほど、補給に支障が出ている。
ここで講和しないと、全戦全勝したまま全軍瓦解、敗北しかねない。
「まあ、今回の戦いでバルチック艦隊が全滅したのでロシア側の選択肢、制海権の確保は絶望的になりました。機会としては良いでしょう」
「そうじゃろう」
「ですが選択肢の一つが潰れただけです。この成果を生かして、全面的に包囲網を敷きましょう」
「どうするんじゃ?」
「先ずはアメリカに講和交渉の仲介を頼みましょう」
「それはもやっておるが、前回も拒絶されておるからのう。望み薄じゃ」
旅順陥落と奉天会戦の直後に仲介して貰ったが、いずれもロシア側は拒否した。
「バルチック艦隊の来援が期待できたのと、陸ではまだ戦えましたからね。今回はバルチック艦隊の撃滅で頼りの綱が一つ無くなりました」
「見込みはあるか?」
「高くなっただけです。まだロシア陸軍の主力が残っています」
ロシア軍は最大動員数で四〇〇万と言われている。
流石に全軍を動員したら、各方面への守備兵力が足りなくなるし、シベリア鉄道の能力も限界になる。
まして国力が保たず、国が瓦解しかねない。
それでも一〇〇万は満州へ動員できると考えられた。
「我が帝国陸軍と海援隊、陸援隊の総兵力とほぼ同じです。勝てる見込みは五分ですよ」
機関銃や、大砲、列車砲などを開発したが、最後に戦いの決め手となるのは兵員の数であり、武器の数だ。
ロシアが上回っており、決して楽観できない。そしてロシアも陸戦での勝利を諦めてはいない。ぐらついているだろうが、頼りにしているのは確かだ。
「少なくとも、戦争から降りたいとは思っているでしょう。抜け出すための道筋を用意すれば乗ってくるでしょう」
「その道筋はあるのか?」
「ええ、欧州列強各国、王室を通じてロシアに講和の席に着くように依頼します」
「聞いてくれるかのう」
「今の状況なら聞いてくれますよ。ロシアで革命が起きています。ロマノフ王朝がブルボン王朝のように倒れて革命戦争からナポレオン戦争のような事になるのは避けたいでしょうし」
「しかし上手くいくかのう」
龍馬は疑問に思った。
明治維新という革命的な事を行った龍馬だが、それは国民戦争ではなく上の革命だった。
そのためヨーロッパの市民革命への恐怖をイマイチ理解できずにいた。
「ナポレオン三世が普仏戦争で敗北した後フランスから叩き出されましたよね。自分達も同じ事にならないか心配なのですよ」
「そうか」
幕府側を支援したせいか、ナポレオン三世への評価が低いように感じる。
まあ、その頃は北海道と樺太への入植に手一杯で、気が回らなかったというのもあるだろう。
「で、他に方法は」
「まあ、制海権を取りましたからね。徹底的に活用しますよ。山縣候の作戦案に載りましょう」
「上手くいくかのう」
「上手くいくようにするんですよ。何もしなければ意味がありませんし、講和を果たさないと大変な事になります」
「それもそうじゃのう。分かったやっておく」
「お願いします。それと、新たな戦債は販売を始めたんでしょうね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます