水雷戦隊
皇海型からの砲弾の雨がインペラトール級に降り注ぎ損害が増える。
それでも出し得る速力でレーマンは皇海型に向かわせる。
だが、二〇ノットを超える皇海級に追いつく事など出来ない。
インペラトール級の射程外から砲撃を繰り返し一方的に砲撃を浴びせていく。
そして、後方から爆発音が響いた。
「どうした」
参謀長の声がかき消されるほどの轟音が響く中その余韻の中を切り裂くように、いや、轟音の余韻を葬送歌のようなBGMとして悲鳴のような報告が入る。
「三番艦インペラトール・エカテリーナ二世被弾! 爆沈!」
皇海級三番艦天保が放った砲弾の一発が船体中央部左側、第三砲塔弾薬庫直上に直撃。装甲を貫通して弾薬庫内部で爆発。注水する間もなく周囲の炸薬に誘爆を起こし船体を破壊。
爆圧は前後の隔壁を容赦なく破壊し、大浸水を起こした。
更に機関室のボイラーに海水が触れ、水蒸気爆発を発生させ、被害は更に拡大。
応急修理不能な損害を与えた。
機関室の隔壁も破壊され、浸水は数秒の間に増大。
瞬時に沈没させた。
その様子を見た一同は血の気が引いた。
「このままやられるのか」
レーマンは歯ぎしりしたが、皇海にも弱点がないわけではなかった。
「長官、弾薬が尽きかけています」
「そうか」
砲術長である金田に言われて鯉之助は顔をしかめた。
対馬で景気よくバルチック艦隊に向かって砲撃を行ってから、津軽に来たのだ。
そして遠距離砲戦で景気よく撃っている。
弾薬が尽きかけても仕方が無い。
それに使っている特製の徹甲弾は、生産されたばかりで数が少なく、皇海型に少数しか搭載されていない。
砲撃の効果はあり、目に見えてインペラトール級の速力は落ちているし火災も発生している。
しかし、撃沈できそうにない。
「仕方ない。第一水雷戦隊に突撃命令」
「昼だけど」
「援護射撃を行う。その間に距離を詰め、撃沈しろ」
「尻拭いをさせるのね」
「そうだよ。他に方法があるかい? 参謀長」
もし良案があるなら是非聞きたいと尋ねた。
「そうね。ここで仕留めた方が良いわね。麗に命令するわ」
「私たちの出番ね」
旗艦綾波に座乗する麗は、命令を聞いて気合いを入れた。
戦時増産により八隻から一六隻へ増加した新型駆逐艦を統率するため、鯉之助が新たに編成させたのが水雷戦隊だ。
それまでは駆逐隊を艦隊に直属させていたが、隻数増加に伴い、駆逐隊の数も増加。
指示を出しづらくなったので駆逐艦を指揮する部隊を編制した。
それが水雷戦隊だ。
第二次大戦で活躍する水雷戦隊だが、正式に編成されたのは水雷の威力が認められた日露戦後、第一次世界大戦の頃だ。
鯉之助は再び、歴史を先取りした。
「全艦突撃!」
一六隻の駆逐艦が一斉に突撃を始めた。
防護巡洋艦を旗艦にしているが、タービンを積んだ駆逐艦に追いつけないため、麗は綾波を旗艦にして先頭に立って突撃する。
目標は、三番艦がいなくなって離れている四番艦。
これを仕留めれば大金星だ。
「雷撃用意!」
麗の号令で各艦は装備している五三サンチ魚雷三連装発射管を準備する。
対馬沖では日本海軍に任せていたため全門に魚雷が残っている。
これらを全て叩き込むつもりだった。
「目標! 最後尾の敵四番艦! 第一一駆逐隊より襲撃!」
一斉に突撃したら味方同士で衝突する危険があり駆逐隊毎に襲撃を仕掛ける。
撃沈された三番艦の後ろ、前の二隻から離れている最後尾の四番艦を狙うのも良い判断だ。
接近してくる麗の駆逐隊に盛んに防御射撃を浴びせてくるが、鯉之助の第一一戦隊および明日香の第一二戦隊が、援護砲撃を行い、黙らせる。
命中は少なくとも周囲の水柱によって照準が困難となる。
至近まで接近しはじめると、鯉之助は照準を一番艦と二番艦に変更。援護できないようにする。
四番艦の副砲群は大部分が破壊され沈黙していたが、残った方で駆逐艦を接近させまいと砲撃を繰り返す。
放たれる砲撃を前に駆逐隊は怯まず進んで行く。
「撃て!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます