設計の差

 レーマンの推測は当たっていた。

 鯉之助は徹甲弾を改造し、先端部に軟鋼、軟らかい鋼を付けていた。

 この軟鋼が命中時に装甲に粘り着き跳弾を防ぐのだ。

 これで正面から徹甲弾のエネルギーはそのまま装甲へ伝わるようになり、装甲の内部へ侵入する。

 さらに弾体の頭にキャップをつけて速力が落ちないようにしたスピードを増してエネルギーを強くしたのだ。

 後の仮帽付被帽付徹甲弾と同じ構造だ。

 流石に弾体の強化までは出来ず、九インチの装甲板を貫けないが、比較的装甲の弱いところは貫通できるようになった。

 その威力は、インペラトール級に惜しみなく発揮された。


「二番艦インペラトール・エリザベータ被弾! 機関部に損傷! 速力低下! 落伍します!」

「早く反撃するんだ。打ち返せ」


 動揺する部下にレーマンは指示を下す。


「砲撃準備完了!」

「撃て!」




「中々効いているな」


「敵艦発砲」

「この遠距離で当てるつもりか」


 鯉之助はいぶかしんだ。

 一万五〇〇〇メートルで当てられる装置など皇海以外にないはずだ。

 しかし、周囲に砲弾が雨あられと降り注ぐ。


「凄い、正確に砲撃してきたぞ」


 砲弾が降り注いだのを見て鯉之助は驚くと共に称賛する。


「喜んでいる場合ではありませんよ」

「分かっているよ。更に距離を置く。全艦一斉回頭左九〇度。距離二万で砲撃する」




「敵艦が離れていきます」

「我々の砲撃に恐れをなしたのですかな」


 砲戦距離が一万メートル以下を想定している世界の海軍で交戦距離二万メートルで交戦しようと考えるのは鯉之助だけだ。

 だが、そんな距離で当たるはずがないとレーマンは思った。

 しかし予想は裏切られた。

 インペラトール・ピョートル一世の周囲に水柱が林立する。


「馬鹿な、いきなり夾差だと」


 確実に捉えられていることを示している。


「敵に近づく! 取舵だ! 全艦左九〇度回頭! 敵に向かえ!」


 レーマンが命じたとき、予想外の事態が起きた。

 皇海から第二斉射が行われ、遂に命中弾が発生した。

 機関部に被弾し、速力が低下した。

 ようやく、回頭に成功し、追いすがる。


「敵艦隊反転! 去って行きます! 敵艦発砲!」

「負けるな! 此方も打ち返せ!」


 しかし、皇海級が有利だった。

 前後に背負い式に搭載した皇海級は二つの連装砲塔を後ろに向けられる。

 一方、重心上昇を嫌ったインペラトール級は、全ての砲塔が、同一甲板上に置かれており艦首から


 主砲、艦橋、主砲、機関室、主砲、機関室、主砲


 という配置になって仕舞った。

 そのため、前方には一基の主砲しか撃てない。

 しかも、この艤装配置は、新たな問題を引き起こした。

 再び斉射が行われ、インペラトール級に砲弾の雨が降り注ぐ。


「後部機関室に命中! ボイラーが一基大破! 使用不能!」

「艦首部被弾! 大破!」


 背負い式のように全長を縮めることが出来ないため、全長が伸びた上、六割が機関部と弾薬庫というバイタルパートが占めた。

 結果、命中弾が出た場合、六割の確率で主砲か機関室に命中し、攻撃力か速力のどちらかが低下する設計になってしまった。

 勿論、ゲオルギーもこの問題を頭に入れており、改正するように技術者に注文した。

 しかし、未知の技術であり、前例がないため――皇海級は先進過ぎて失敗すると考えていたこともあって技術者達は反対した。

 実際に作る彼らの意見を翻すことは出来ず、通常の標準戦艦を圧倒できれば良いと考えたゲオルギーは、彼らの案を了承した。

 技術力と文化、陸軍国と海軍国の違いが出てしまい、残念ながらゲオルギーの思い通りにはならなかった。


「さらに機関部に被弾!」

「速力低下! 現在出し得る速力一八ノット!」


 機関部にあらたな砲弾が命中し更に速力が遅くなっている。


「敵艦に追いつけ」

「無理です! 敵艦の速力は二〇ノットを超えています」

「くっ」


 皇海級は、タービンを搭載しており速力が出る。

 一方のインペラトール級は、タービンの入手に失敗しレシプロ機関のため、速力が出ない。

 しかも、バイタルパートを短縮できなかったため、装甲を施す範囲が増加。

 速力を出すため、水平甲板の装甲を通常の艦と同じレベルに限定する事になってしまい、上空から落ちてくる砲弾をはじき返せない。

 再び皇海が、回頭して全主砲をインペラトール級に向け発砲した。

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