皇海型合流
「きゃっ」
被弾による激しい振動で筑波の露天艦橋にいた明日香は悲鳴を上げよろめく。
「司令官、大丈夫ですか」
「私は大丈夫。艦の損害は」
明日香は気丈に振る舞い、損害を確認する。
「艦首部に命中。舳先が壊れました」
「左舷中央部に命中! 副砲三門が使用不能! 死傷者多数!」
「第三砲塔に被弾!」
「注水! 誘爆を防いで!」
弾薬庫に火が回れば幾ら大型艦でもお終いだ。
「第三砲塔に注水成功! 火災止まりました!」
「良かった」
明日香はホッとするが戦況は予断を許さない。
「右に反転! 離脱する!」
「よろしいのですか」
「この艦で正面から戦うのは不利よ」
皇海とほぼ同じ武装を施されながら二九ノットの速力を出せるのは、装甲を薄くしたからだ。
同クラスの戦艦と戦えば、防御が薄い分、相手の攻撃が命中したとき大打撃を受ける。
「私が熱くなりすぎたわ。これ以上損害を受ける前に離脱して」
「了解」
明日香の判断は正しかった。
戦艦に対しては速力を生かして、優位な位置を占め、アウトレンジから攻撃。
敵の針路を妨害、誘導するのが筑波型、巡洋戦艦の戦い方だった。
「それに私たちの役目は果たせたわ」
明日香は南の海上に林立する黒煙を見て笑みを浮かべた。
「北方の敵艦。離脱していきます」
「追撃しますか?」
「いや、燃料が惜しいし弾薬も足りない。追いつけそうもないし、ウラジオストックへ向かう」
「南方より数条の黒煙を確認。敵艦らしい」
「また新たな敵艦か」
レーマンが報告を受けて見ると、そこには三脚檣を持つ戦艦、皇海級四隻が迫ってきていた。
「何とか間に合ったな」
皇海の露天艦橋で鯉之助は前方の敵艦隊を皆が言う。
津軽海峡急行中、敵の海峡突入を聞いて一瞬焦ったが、直ちに明日香率いる筑波型を先行させ、接触と進路妨害を命じた。
飛行船の接触情報もあり、明日香は無事に敵艦と接触した。
「明日香はよくやってくれたようです」
敵艦隊と筑波型の様子を見て参謀長の沙織が言う。
鯉之助も同感だった。
接触し、敵の針路を妨害すると共に、鯉之助達へ敵艦隊を誘導する。
敵の目の前を通り過ぎ、北西方向から攻撃を加え続ける事で、南西へ、南から来る鯉之助に方向へ押し出し、有利な状況を作り出す。
その困難な任務を明日香は完全に達成してくれた。
「本当はもっと距離をおいて砲撃してくれたら良かったんだけどね」
速力を生かしアウトレンジから砲撃して敵艦の針路を妨害するだけで十分だった。
熱くなりすぎて、距離が縮まったようだ。
「後でお仕置きかな」
「程々にね」
沙織がジト目で鯉之助に言う。
何処か卑猥というか邪な思いから口にしているように聞こえる。
鯉之助は、はぐらかすように生暖かい笑みを浮かべるしかなかった。
そんな気まずい雰囲気だが見張りの報告ですぐに霧消する。
「敵艦隊までの距離一万二〇〇〇」
「取舵!」
鯉之助は艦隊を左へ向けさせた。
南西へ、鯉之助達に向かってくる敵艦隊に対して正面を横切るような形になる。
その瞬間を鯉之助は見逃さなかった。
「敵艦隊までの距離一万! 敵艦隊を正面に捉えました」
「砲撃開始!」
皇海型四隻の全主砲三二門が火を噴き第四戦艦隊のインペラトール級四隻に砲撃の雨を降らせた。
「うおっ」
旗艦の周囲に林立する水柱と爆発による動揺によりレーマンはよろめいた。
「凄まじい射撃だな。射撃の精度は向こうが上か」
自分たちとは違い、初手から近くに砲弾を降らせてくる。
戦争前から射撃指揮装置を研究し、実戦で改良を重ねた結果、命中率が上がっている。
しかも乗員が射撃法に手慣れているようだ。
「だが、我々も負けてはいないぞ。針路変更! 面舵!」
レーマンは平行するように艦を動かし全ての大砲が左舷の皇海級を向くように旋回させた。
「撃てっ」
狙いが定まるとレーマンは第四戦艦隊にすぐさま砲撃を開始させ皇海型に砲撃を浴びせる。
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