弩級戦艦 対 弩級巡洋戦艦
筑波型から撃ち込まれた砲弾が、反対舷に落ちたことを見てレーマンは、口元を歪めた。
敵の反対側に砲弾が届いたということは、自分たちが敵艦の射程内に入っている証拠だった。
しかし好く毅然とした指揮官の表情を取り戻し命じる。
「応戦する。主砲射撃用意。面舵! 同航戦!」
レーマンは筑波型との対決を決断し、主砲が全て使えるよう、敵に対して艦を平行に走らせるように回頭させる。
「させない」
だが明日香は、筑波型の優速を最大限に生かし、新たな針路に回り込むように走らせ一方的に打ってくる。
「ちょこざいな」
前方を横切るように走る筑波型にレーマンは苛立ちを覚える。
だが同時に隙も見つけた。
「左に回頭! 右に主砲を向けて砲撃しろ!」
素早く筑波型の後方、西に向かって針路を変更。
ウラジオストックへ向かうと共に、筑波型を右舷に全主砲が捉えるようにレーマンは艦隊を動かす。
「くっ」
突如猛砲撃を受けた明日香は、周囲に林立する水柱を見て顔を歪める。
先日の通商破壊艦による被害を思い出したからだ。
「一時離脱する。一斉回頭! 反転左九十度」
敵の攻撃を避けるため、一度北方へ艦を退避させ、インペラトール級の射程外へ逃れる。
そして射程外から、先回りして北側から圧迫していき、再び頭を抑え、射程に抑えた。
「撃って!」
再び筑波は射撃を開始する。
猛訓練のお陰ですぐに命中弾が出てくる。
「なかなか貫通しないわね」
いくら撃って命中させても装甲を撃ち抜けないインペラトール級 を見てアスカは苛立っていた。
当時は装甲の製造技術が向上。
表面硬化の技術が高まり装甲の防御力が上がっていた。
徹甲弾を用いても正面からぶつかっても弾体が壊れる、斜めから入れば装甲の硬さで弾き飛ばされる。
防御力優位の時代となっていた。
日本海軍が下瀬火薬と伊集院信管を用いた榴弾を使用していたのもそのためだ。
徹甲弾を使っても敵艦の装甲を打ち抜くことはできない。
特に三笠と同じクルップ鋼を使っているインペラトール級は手も足も出なかった。
榴弾で損害を与えているが、防御区画、機関部を撃ち抜けず、速力は落ちておらず仕留められそうにない。
それどころか反撃してくる。
首尾線上に主砲が並べられたインペラトール級は、各艦連装四基八門の主砲、合計三二問を筑波型に向けて発砲、弾の雨を降らせる。
しかし、目測を誤ったのか、全て手前に降り注いだ。
「大丈夫よ。ロシア艦の砲撃なんて簡単に砲撃は命中しないわ」
遠距離砲撃の試験が足りないのか明らかにロシア側は射撃が下手だった。
本国より遠く離れた海域への回航。砲弾の補充も碌に見込めないため、弾を消費する演習など行えない。
また完成して即時編成に加えられたため、試験も、訓練も不足しがちだった。
一方、明日香達は完成後、何度も演習し、実戦さえこなしていた。
鍛えた時間と、くぐった修羅場の数が違う。
しかも、ロシア側の射撃指揮装置は英国の装置を真似て作ったばかりの試作品で、十分な性能を持っていない。
そのため無駄玉が多かった。
しかし、ロシア側も徐々に、腕を上げていった。
この戦い、という実戦の中で徐々に習熟していった。
「落ち着いて狙え。距離を三千増すんだ」
レーマンは冷静だった。
すぐに、ズレを確認すると、砲術長に命令して修正させる。
そして試射を行い観測し、正しいとみるや各艦に通達。
すぐに一斉射撃を行い、筑波に砲撃の雨を降らせる。
そして遂にロシアの砲弾が筑波を捉えた。
降り注いだ三二発の内、四発が至近弾となって水線下の船体を叩く。
そして三発の砲弾が筑波に命中した。
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