洋上給油

 皇海型四隻、筑波型二隻、それに駆逐艦を従えた義勇艦隊は命令と共に全速で急行する。

 機関には重油が大量に入れられ、蒸気圧を最大にし、タービンを全速で回す。

 艦隊の速力はみるみるうちに増大し、皇海型の最大戦速である二三ノットで進撃を始めた。


「けど燃料は大丈夫なの?」


 参謀長の沙織が尋ねる。

 広い太平洋を航行出来るよう海援隊の船は航続距離を長く取っている。

 だが、巡航速力での話だ。

 最高速力だと、すぐに燃料がなくなる。

 皇海型も例外では無い。

 対馬から津軽へ移動した後、全速力で反転急行してそのまま、海戦に入ったため、燃料が足りなくなっていた。

 皇海はともかく随伴する駆逐艦の燃料が足りない。

 しかも、分け与えたら、皇海も津軽にたどり着くのは何度か出来るが、戦闘をするだけの燃料が足りない。

 ウラジオストックまでの追撃とその後の帰りの分も考えると、心ともない量なのだ。


「大丈夫だ。既に手配している」


 暫く航行すると、前方に商船らしき姿があった。


「海援隊のタンカー日章丸です!」

「よし、来てくれたな」


 海援隊の二曳きの旗を認めた鯉之助は喜ぶ。


「各艦速力低下、洋上補給用意! 日章丸の左右に二隻ずつ展開」


 樺太を手に入れた海援隊は開発に着手し、北樺太にあるオハで石油の採掘を始めた。

 その石油を運び出すために多数のタンカーが建造されており、日本各地に運んでいた。

 そのうちの一隻を、燃料補給用に徴発、義勇艦隊に編入していた。

 そして洋上給油できる様に、一〇ノットの低速ながら並走したまま補給できるようにしたのだ。


「筑波型から補給を済ませろ」


 鯉之助の命令で筑波型二隻が日章丸の左右に並び給油を始める。

 海戦前に低速で平行して長時間航行させる訓練が役に立った。


「皇海型四隻は、駆逐艦への給油を行え。残っている燃料を駆逐艦に渡すんだ。駆逐艦の燃料タンクを満タンにしろ。空になっても大丈夫だ。すぐにタンカーから補給できる」


 時間が貴重だ。

 給油の時間を少しでも短くしたい。

 タンカーから給油を受けている間に、駆逐艦へ戦艦から燃料を移す。

 そして、最後に戦艦の減った分をタンカーから補充してもらい、満タンにする。

 一隻一隻がタンカーから給油するより、遙かに時間は短い

 鯉之助の命令はすぐに実行され、動き出す。

 洋上給油の訓練は他の洋上訓練のために、港に戻らず訓練をするためにやっていたのでお手の物だ。

 すぐさま周囲の駆逐艦が皇海型と並走し、準備を整え、給油が始まる。


「これが出来るから重油は良いんだよな」


 迅速に始まる作業を見て鯉之助はにんまりと笑う。

 簡単に給油できる点も鯉之助が皇海級の機関をドレッドノートの石炭専焼缶ではなく重油専焼缶にした理由だ。

 燃料補給作業を行いつつ、鯉之助は津軽に向かった。


「でも、給油完了後、全速で航行しても津軽到着は、敵の海峡通過予定時刻ギリギリね」


 作業の手配と、航路計画を立てていた沙織が言う。

 給油作業の間はどうしても低速で航行しなければならない。

 そのため、津軽海峡への到着時刻が遅れてしまう。


「俺たちが到着するまでに敵が突破しなければ良いのだが」


 沙織の指摘に同意した鯉之助は僅かに焦った。

 もし、思い切りの良い指揮官なら、すぐにでも海峡へ突入し強引にウラジオストックへ行ってしまう。

 いくら最大速力二三ノットの皇海型でも津軽海峡到着に間に合わない。

 日本海に入られたら、広い上に霧が発生しやすいため敵艦を発見するのは難しい。

 確実に発見できるのは津軽海峡を通過する時だけだ。

 通り抜けられウラジオストックへ入港されてしまう。

 連合艦隊がウラジオストックで待ち伏せする予定だが、間に合う保証ない。間に合うための時間を稼ぐために鯉之助達が向かっているのだから当然だ。

 だが燃料を補給しなければ追いつくことは出来ない。

 石炭に比べれば迅速な作業だが、作業には時間が掛かる。


「じれったいな」


 テキパキと進んでいく作業を見ながらも、鯉之助は焦りを募らせた。

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