東郷とネボガトフ少将の会見
早速降伏した第三戦艦隊に秋山が軍使として派遣される。
旗艦インペラトール・ニコライ一世に乗り込み、国際法に則った扱いを保証するとネボガトフ少将は降伏の申し入れをして、サーベルを差し出し秋山は受け取った。
ここに第三戦艦隊は降伏した。
その後。各艦が接近し敵艦を接収しに行く。
その間に、他の艦から重大な通報が入った。
「長官、駆逐艦漣より電文。敵駆逐艦ベドウィンを捕獲。乗艦していたロジェストヴェンスキー提督を捕虜にしたそうです」
「そうか。ここでの戦は終わりもうした」
敵艦隊の降伏と敵司令長官の確保に安堵した連合艦隊司令部だった。
「長官、ネボガトフ少将をお連れしました」
丁度その時、秋山がもどってきて報告した。
ネボガトフ少将は丁度、カッターから三笠に乗り移り、下の甲板で待っていた。
「公室でお会いしたい。お連れするんだ」
「はっ」
いくら投降した人、いや、降伏したからこそ礼儀を尽くして、会わなければならない。
吹きさらしの甲板で会うなど失礼だ。東郷はそうした配慮を忘れなかった。
後部にある長官公室に案内され、現れた東郷にネボガトフ少将は降伏を受け入れてくれた事に感謝し、尋ねた。
「何故、我々が対馬を通ると予知されたのですか?」
「予知ではなく推定ということですな」
通訳を通じて東郷は話した。
「それは地理や天候などいろいろな状況を判断する要素はありましたが……」
東郷は一度黙り込んだ。
海戦に至るまでの情報判断と苦悩を思い出しかみしめながらいった。
「それ以外のあるものが……」
戦争前の明治維新の時、新政府軍の一員として、列強に対抗するため日々勉強をした時の事を、同じ思いを抱き尽力した仲間を、その結実を思い出しながら東郷は言った。
「……なければ無理でしたね」
その時、公室の扉が開いた。
「失礼します。海援隊中将、才谷鯉之助。只今、参りました」
海援隊の制服に身を包んだ鯉之助が現れ、東郷は笑みを浮かべて迎えた。
「紹介しましょう。彼が海援隊の才谷中将です。彼の働きが無ければ、我々は勝てなかったでしょう」
無線機を始め、皇海型戦艦、筑波型巡洋戦艦、飛行船。
他にも様々な新兵器が無ければ大国ロシアを相手に、倍以上の国力があるロシアを相手に戦う事は出来なかっただろう。
彼の、発明が無ければ、海援隊の発展が無ければ、決して今の勝利はなく、逆に東郷が敗将としてネボガトフ少将と会っていたかもしれない。
「なるほど。我々は、貴方に負けたわけだ」
鯉之助の姿がゲオルギー殿下の様に見えた。
何処か不思議な雰囲気で見リアを見ているようだ。
ただ、鯉之助は生き生きしていた。
兄であるニコライ二世や周囲の反感により、中々才能を生かせない。
確かに突飛なところがあるが、後になって初めて先見の明があったことを知らされる。
今回の海戦も、ゲオルギー殿下の意見通り、開戦後直ちに派遣すれば全く違ったことに、旅順陥落前に到着すれば、日本軍を苦しめることが出来ただろう。
しかし、ゲオルギー殿下は疎まれ、策は退けられ、艦隊は降伏することになった。
対して鯉之助は東郷をはじめ理解さある人物に重用され、才能とアイディアは生かされ、強くなった。
「負けるべくして負けた、と言うことですか」
ネボガトフ少将は自分らの不明を恥じるばかりだ。
もっとゲオルギー殿下の役に立てば、東郷の言う、それ以外のものがロシアは手に入れられたのではないか。
海戦の結末、いや戦争の過程さえ違ったのではないかと思い、忸怩龍臣がこみ上げてきた。
「ですが、あなた方でも全てを見通すことは出来ないようですね」
ネボガトフ少将の言葉の意味を東郷と鯉之助は尋ねようとした。そのとき慌ただしく扉が開かれた。
「軍令部より緊急電です!」
伝令が公室に飛び込んできた。
「伊豆諸島でロシア艦隊発見! 現在太平洋岸を北上し津軽海峡へ向かっています!」
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