連繋機雷
「何処だ!」
敵艦発見の報告に鈴木司令は色めき立つ。
「右前方六〇〇メートル! 大型艦らしい!」
「あれか!」
鈴木司令の双眼鏡も敵艦らしきものを捉えた。
「敵艦か」
艦影を見て鈴木司令は朝霧艦長と相談した。
「ナヴァリンのように見えますが、損傷した三笠のようにも見えます」
ナヴァリンはバルト海向けの海防戦艦として建造された艦だ。
前後に三笠と同じ、一二インチ連装砲を各一機踏査しており形が似ていた。
四本煙突だが、前後に二本ずつ並列に置いているため真横からでは判別しづらい。
甲板が低いが、波が高く、甲板まで高いか低いか分からなかった。
「難しいな」
味方を誤って攻撃するのは避けたい。
だが、敵を見逃したくもなかった。
しかし、昼間の砲撃で艦の形が変わっている事もあり、識別は困難だった。
「敵味方識別を行う。汽笛鳴らせ」
ブオッ
矢収容に開発された低い音を出す汽笛を鳴らす。
反応はない。
「念のため、もう一度」
ブオッ
「反応なし!」
「司令、こいつは」
「敵艦と認む! 襲撃する!」
決断は早かった。
普通の指揮官なら間違いを恐れて逡巡する場面だが、鬼貫は果断だった。
敵艦と認識し襲撃を命じる。
「連繋機雷を使う」
連繋機雷とは秋山が考案したブイで浮かぶ浮遊機雷四個を百メートルのワイヤーで数珠つなぎに繋いだ機雷だ。
敵艦の進路上に敷設、敵艦がどちらに舵を切ろうともワイヤーに引っかかり、船体に機雷が引き寄せられ爆発する。
日本海軍の秘密兵器だ。
「了解! 敵艦の前に出て敷設を行います」
「前方に敵艦!」
指示を出そうとしたとき見張りが新たな敵艦を報告した。
すぐに鈴木と艦長は双眼鏡を覗いて確認する。
「シソイ・ヴェリキィーらしいです」
シソイ・ヴェリキィーは近代戦艦の祖と言われる英国のロイヤル・ソブリン型を模倣して作られた艦だ。
日清戦争前に建造された富士型戦艦もロイヤル・ソブリン型を模倣しており形がよく似ていた。
「間違いないか」
「間違いありません」
艦長は断言した。
マストの形が微妙に違っていた。
また、先ほどの敵味方識別に反応しない艦に続行するなど、日本艦とは思えない。
「よし、目標を変更する。新たな敵艦の前方へ出ろ」
「了解! 針路維持!」
「今度は相当打たれるぞ。覚悟しておけ」
昼間も第二戦隊の援護で流れ弾を食らったし、スワロフへの攻撃で撃たれている。
しかし、流れ弾はまばらだったし、スワロフも炎上している所にトドメを刺したようなものなので大した攻撃は受けていない。
今回は夜戦だが、敵は見たところ、ボロディノ級戦艦に攻撃が集中したためかほぼ無傷。見つかれば相当な反撃を食らうだろう。
駆逐艦などあっという間に蜂の巣にされてしまう。
「敵艦を沈められるならどうにでも」
だが、第四駆逐隊の乗員はやる気だった。
軽口を叩き、攻撃に備える。
「ほぼ真横に並びました。距離二〇〇〇」
「面舵四点! 敵に近づけ!」
「面舵!」
すぐに右四五度に針路を変更し、敵艦に向かう。
「このまま近づきつつ、距離を詰めろ。次にもう一度右に四点変針し敵艦前方を横切り、そこで連繋機雷を放つ」
「了解! 連繋機雷投下用意! 距離六〇〇! 全数投下法!」
連繋機雷は各艦二群乗せている。
一群で四〇〇メートル、一艦で八〇〇メートルもある機雷の壁を作れる。
一隻欠けているが、三隻なら二四〇〇メートルもの壁を作れる。
だが、全員が緊張していた。
敵の前方に出てよこぎらなければ使えない。
夜間でも距離六〇〇では見つかるだろう。
かといって遠くに敷設しても、敵艦が針路を変更したら無意味だ。
至近距離で投下するしか方法はない。
「面舵!」
最後の回頭が始まった。
旋回しても、直進を続ける。
味方が一直線に並ぶのを待っているのだ。
その間にも敵艦は接近してくる。
見つかりたくない。
すぐにでも離脱したい。
だが投下するまで出来ない。
早くしてくれ
乗員の誰もが思ったとき、艦橋から点滅信号が灯った。
「合図だ! 投下! 投下!」
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