海戦の問題点
「直したところ、海戦中に壊れていないでしょうね」
だが矢頭式計算機の能力をイマイチ信用できない明日香は疑問を感じて尋ねた。
「皇海の建造にも使ったんだ心配ない」
「……分かったわ。そのことは信頼する。けど、訓練内容がおかしくない?」
「何処が?」
「いくら技量向上のためとはいえ十ノットで数十メートルだけ離れてタンカーと一時間以上並走し続けるなんて無茶よ。もし接触したら両方とも大破するわよ」
「この訓練が一番重要なんだ。ロシア艦隊と戦うときこれが絶対に必要になる」
「本当でしょうね」
「本当だ」
「まさか敵艦までこの距離まで接近して攻撃しろってことじゃないでしょう」
「当たり前だろ」
「じゃあなんでこんなことするのよ」
「戦いと戦いの間に必要なことだ。兎に角この訓練は続けてくれ」
「わかったわ」
不承不承で明日香は、抗議を止め、自分の旗艦に戻っていった。
「納得してくれたかな」
「大丈夫でしょう。口ではああ言っていても、明日香はあなたのことを信頼しているから」
不安そうな鯉之助に沙織が言った。
何時も突拍子もないアイディアを出す鯉之助のことをいぶかしく思っているが、なんだかんだで最後には成功させてしまう上、人々を喜ばせる。
そんな鯉之助の事を麗は勿論、明日香も沙織も信頼していた。
「でもバルチック艦隊相手に本当に勝てるの」
流石に沙織はバルチック艦隊を相手にまともに戦えるのか不安だった。
ロシアの本国に置かれた主力艦隊であるバルチック艦隊は強力な艦を配備されていると予想していた。
見たことも無いため、勝てるかどうか予想が付かず沙織は不安がっていた。
「大丈夫だよ。勝てるよ」
だが鯉之助は自信満々に言った。
史実で勝っているので自信を持って言える。
「接触して戦闘になればこちらのものが圧勝できるよ。問題のは」
「問題なのは?」
「無事に接触できるかどうかだよ」
敵を見つけるのが意外と難しく、見つけられず引き返した例は歴史上多い。
開戦劈頭、ウラジオストック艦隊が、日本海の濃霧を利用して日本近海へ進出。
通商破壊を行い日本側を大きく動揺させたことがあった。
迎撃に出た第二艦隊は何度も近くを航行し、すれ違ったが見つけられず、取り逃がすことが多かった。
史実の日本海海戦でも、直前までバルチック艦隊を見つけられず、あわや取り逃がしかけた。
「見つける事が出来れば、全力で潰せる。そのためにバルチック艦隊を見続ける」
発見し接触させる。
そのために鯉之助は様々な手段を用いていた。
英国海軍やフィリピン海軍の艦艇に似た防護巡洋艦を派遣し監視させたのもそのためだ。
他にも、バルチック艦隊を見つけるために飛行船部隊を派遣するなど様々な手を打っていた。
「それなら勝てそうね」
「うん、でも乗り越えないと行けないことがある」
「なに? まだ何か問題があるの? 戦力が不足しているの?」
「いや戦力じゃない」
不安がる沙織に鯉之助は手を振って否定してから答えた。
「戦闘が始まる前の段階だよ。何処に何時バルチック艦隊が来るのか分からず、連合艦隊は動揺しているだろう」
「東郷長官は対馬海峡を通過すると判断しているんでしょう。それに対馬海峡が最短でしょう」
「その通り、でも中々バルチック艦隊が来ないから、他の海峡、津軽海峡か宗谷海峡からからやってくると疑心暗鬼に陥っている」
史実でも仏印を出港したバルチック艦隊の動向が掴めず、連合艦隊司令部は疑心暗鬼に陥った。
海峡を通過すると判断していたが予想される事実になってもバルチック艦隊は現れず、対馬海峡方面に向かったのではないかと疑っていた。
実際、史実でも海戦の前日には津軽海峡へ連合艦隊全艦艇が移動する準備命令さえ出されていた。
正しい判断でも現実で予想通りに行かないと疑心暗鬼に陥る。
この時もそうだった。
直後、バルチック艦隊を追跡していた巡洋艦からバシー海峡にてスコールに遭遇しバルチック艦隊を見失ったという報告がもたらされ、不安は一気に高まった。
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