ロシア秘密警察オフラーナ
オフラーナ――ロシア帝国内務省警察部警備局とはアレクサンドル二世暗殺未遂事件の後、ペテルブルク特別市付属秩序警備・公安局として創設された政治秘密警察である。
のちに内務省警察部直属となり、悪名名高き皇帝官房第三部に代わり、ロシアの革命勢力ナロードニキの弾圧に力を入れていた。
アレクサンドル二世暗殺事件後、ナロードニキ関係者への徹底的な捜査と弾圧により、一時は彼らを壊滅させた。
しかし、工業化により格差が広がり貧困層が増えると、二〇世紀に入ってから再びナロードニキの活動が活発化していた。
相次ぐ暴動やテロの発生は、防ぐ立場にあるオフラーナを悩ませていた。
特に日露戦争が始まってからは、戦局の劣勢が伝えられ、物資不足も相まって貧困層の間で不満が高まり、暴動やテロが増えている。
ナロードニキ達と貧困層が結びつき、フランス革命のような事態がロシアでも発生するのではないか。それが現在、彼らオフラーナ最大の危惧であり、体制の維持のために活動している彼らにとって防止しなければならない事態だった。
そのためにオフラーナは活動しており、各地で反体制派狩りを行っていた。
その幹部の一人であるセルゲイ・スバトフにガポンは会いに行った。
ガポンは信者のために祝福を捧げに行くといって、サンクトペテロブルクにある教会へ入り、秘密の地下室に行く。
そこで待っていたスバトフにガポン神父は会った。
「ガポン神父、良く会いに来てくれた」
スバトフは心良くガポン神父を迎え入れた。
そこはズバトフと会ったことを知られると色々と拙いため二人が用意した秘密の会合場所だった。
「神の恩寵により、何とか上手く行きました」
「早速だが活動資金を渡そう。これからも頼みます」
「ありがたい」
ガポンはズバトフから資金を受け取った。
「何時も援助をありがとうございます」
かねてから援助をしてくれているズバトフにガポン神父は感謝の言葉を述べる。
「あなたのお陰で貧困者は助かります。資金だけでなく色々、ご配慮いただき感謝しております」
資金援助だけではなかった。
ガポン神父の労働者団体を、活動、存続――専制体制下で結社を維持するだけでも命がけだ。特に過激派の社会革命党との関係を疑われれば、弾圧の危険もある。
政府がガポンの労働者団体の弾圧に乗り出さないようにして貰える、あるいは弾圧されないよう指導して貰えるだけでも、十分な援助だった。
それどころか、集会の許可や、様々な許認可、労働者団体に入った優秀な若年労働者に進学の機会を与えるなど、ズバトフはガポン神父の団体に様々な援助を行っていた。
「いや、これもロシアの為だ。貧困層を助けなければ、ロシアの未来はない。そのためならどんな援助も惜しまない」
いつものようにズバトフはガポンに温かくも情熱的な確固たる意志を持った言葉をかけた。
オフラーナ幹部の一人であるセルゲイ・スバトフは、熱心な愛国者であり皇帝への忠誠を誓っており反逆者を許さない優秀な警察職員だ。
だが、同時に祖国ロシアの窮状、特に貧困層の悲惨な境遇と、彼らの不満を知っていただけに革命思想が貧困層に広がり革命に結びつく事を恐れていた。
多くの秘密警察と同じように、オフラーナの正規職員は少人数であったが、膨大な数の外部協力者、スパイや内通者を操ることで運営・捜査していた。
その協力者の中には、ナロードニキの幹部さえいた。捕まえた幹部を密かに寝返らせ警察のスパイにするのが秘密警察の常套手段であり、その手腕にズバトフは長けていた。
彼らからの情報を元にナロードニキを操り、幹部を特定し、憲兵団と共に踏み込み逮捕した。
同時にこのシステムの限界を、抑圧だけでは革命勢力を抑えるのは無理だということを、貧困層の不満を解消しなければならないことを、ズバトフは優秀であるが故に痛感していた。
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