労働組合と宗教
労働組合は一八世紀頃産業革命で厳しい労働を課された労働者達が自主的に組織したことからはじまる。
これが起源で在り後の労働組合として重要な役割を果たした。
カール・マルクスら「共産党宣言」により労働者への言及が始まり、重工業の時代に入り更に労働者が増えると労働者運動は活発化していく。
そして一九世紀後半重大な転機が訪れる。
1891年5月15日ローマ教皇レオ13世が出した回勅――ローマ教皇から全カトリック教会の司教に宛てられる文書としてレールム・ノヴァールム――新しき事柄について、
と意味された文書の表題には「資本と労働の権利と義務」と言う表題が付いて出された。
これまでカトリック教会は教会は「貧しい者には忍耐を、金持ちには慈善を説けば良い」とされていて、労働者の保護には熱心ではなかった。いや、労働者という存在を認識していなかった。
だがこの回勅により労働者の貧困や境遇の改善は、憐れみの対象ではなく、社会正義の問題だとした。
人格の尊厳と基本的人権を認め、擁護し、愛する事を基本とした社会の変革や社会問題への主体的な取り組みを行うよう指示していた。
産業革命により農村の伝統的な農民信徒だけでなく、新たな都市部労働者にも信者を増やすという目的もあったが、この回勅以降、労働者の生活保護はカトリックの基本方針となり二一世紀にに至るまで続く。
言葉だけでなく実際に行動しておりカトリックが労働者団体を認め支援している。
20世紀に入った頃、ガポンもカトリックの動きに刺激を受けた。
産業革命が始まりつつあったロシアの労働者の困窮した生活を救うため、カトリックに見習い労働者の権利を保護しモラルと心身を高めるため労働者組織を作り出す事を決意。
サンクトペテロブルクの労働者を集め、彼らを組織化。
労働者の多くが困窮していたこともあり、ガポンの組織は急拡大を果たし一二支部八〇〇〇名の構成員を数えるまでになった。
「お疲れ様です。ガポン神父」
「ああ、パウロ。何時もすまない」
集まりが終わった後控え室に戻ったパウロは、大学の神学教室でお世話になった司祭、パウロに感謝を述べた。
「アーニャさんはいらしましたか」
「ええ、美味しそうにボルシチを食べていました」
「それは良かった」
懺悔室で苦境にを語ったアーニャにガポンの元へ行くよう薦めたのはパウロだった。
「ですがアーニャさんだけでなく日々、困窮する者が増えています。私の力が足りないばかりに申し訳ないことだ」
「力及ばず戦争になってしまい、私も悲しいです」
二人とも無念を語り合い慰め合った。
パウロはサンクトペテロブルクへ神学を学ぶために留学したきた時、ガポンと知り合った。
二人とも考えに互いの共感。
パウロは故国で伝道活動を行っていたこともあり、神学を志したガポンの良き相談相手となり何かに付け意見を聞いた。
パウロもロシアの事情をしるためにパウロに話しかけ互いにアイディアを出し合い人々を救おうとした。
二人とも大学を卒業したが、パウロは戦争を止めるためにも、下からの反戦運動をするためロシアに残り貧しい人を救おうとするガポンと共に行動した。
だが、残念な事に日露は開戦。
それでもパウロは戦争終結の道を探るためロシアに残り、ガポンの活動を手伝った。
「ああ、それと嬉しいことが、援助をくださる人が来てくださった。豚を一頭分、寄付してくれるそうです」
「それは助かる」
パウロの言葉にガポンは喜んだ。
毎日救いを求めてやってくる労働者の仲間に少しでも報いようと炊き出しを行っているが、その材料さえ手に入りにくい。
しかしパウロはどこからか食料を手に入れ提供してくれるので助かっていた。
「パウロ、君には感謝の言葉もない」
「構わない。君と僕の中だろう」
「いや、君には何時も助けられている。君の献身を皆に伝えられないのは残念だ」
「仕方ありません。私の身分と出自では言葉を聞くことはないでしょう」
パウロは東洋人特有の彫りの浅い顔で自嘲するように言う。
「顔で人を、生まれで人を貶すなど愚かしいことだ。我々は同じ神に仕える身だパウロ」
「仕方ない。戦争中なのです。しかも、君の祖国は私の祖国と戦っているんだガポン」
洗礼名パウロの名を持つロシア正教司祭の本名は山本琢磨。
土佐出身でかつて坂本龍馬と共に行動していた男だった。
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