ビリリョフの活動
オルロフが関西方面への襲撃を考えたのは、商船を捕獲することで一部でも補給を得ようと考えたからだ。
先の襲撃では日本軍は旅順陥落の戦勝で油断しており警戒が緩み本拠地奥深くまで行けると判断。最初に日本海軍最大の根拠地横須賀の日本海軍の基地を攻撃しようと考え実行。横須賀に入る前に戦艦を見つけたので魚雷攻撃を行い沈めている。
その後は追撃を振り切り、太平洋岸を北上しその過程で多くの商船を襲撃し拿捕、沈没させた。
そのため、日本の警戒が関東地方から北の方へ向かっている、と判断し、逆方向で襲撃し奇襲をかけようと考えていた。
しかも大阪は日本の経済の中心なので商船も多く航行している。大型の商船が、大きな獲物が豊富にいると考えたからだ。
またあわよくば日本海軍にビリリョフが関東方面へ向かっているように擬装し、監視の目を関東周辺に向け、おりを見て反転。補給のために南西諸島か朝鮮半島へ向かおうと考えたのだ。
オルロフが考えた作戦は上手く行き、大阪へ向かう商船を多数拿捕。拿捕された商船の情報から日本海軍の眼が東北方面に向かっている事を確認した。
暫し襲撃を続け、多数の商船を捕獲。
やがて日本海軍の目が関東近海に向かい、関東周辺に軍艦が集まっている様子を商船から聞き出すと、その船にこれまで沈めた船の乗員、捕虜を移して送り出した。その際、機関の一部を破壊し修理が必要になるようにした上、関東周辺で襲撃活動を行うので決して近づくなと警告を出してだ。
そしてビリリョフは分かれた後、沿岸部に接近し沿岸の鉄道へ艦砲射撃を浴びせた後、反転して南西諸島へビリリョフを向かわせた。
解放された商船の証言を元に関東周辺に集まっていた日本海軍の艦船はビリリョフを捕捉出来ず、悠々と会合予定地点へ向かって航行を続けた。
襲撃のあと捕獲した商船から移した石炭を移したビリリョフの石炭庫は満杯の状態だ。
さすがに経済性優先のため商船積まれているのは最高カロリーを誇るカーディフ産の石炭ではなく日本産の低カロリー炭だったが仕方ない。
カーディフ産の石炭は戦闘時に備えて取っておくことにして巡航中は日本産を使わせて貰う。
「艦長、日本の商船の通信を傍受しました」
「どうした」
「内容は我々の通商破壊が激しいため出港を拒否するとのことです」
「ふむ、よいな」
通商破壊の被害は、商船を捕獲して沈めることだけではない。
襲撃を恐れ出港しない船舶が出てくる事態が恐ろしい。
船はあっても出港せず、物資も運べず流通網が麻痺し経済が混乱する。
これが通商破壊の真の恐ろしさだった。
「ですが、本社が商船を港に向かわせるために伝えている内容が」
「何だ?」
「我々の巡洋艦を朝鮮半島沖で撃破したから大丈夫だと言っております」
「ふむ」
オルロフは渋い顔をして考え込んだ。
現在本国から派遣されてるのは 、リハチョフとレザノフだ。
このうちリハチョフは朝鮮半島沖の対馬、レザノフは東シナ海を縄張りにしている。
どちらかが見つかり撃沈された可能性はある。
勿論、日本側が商船を安心させるために嘘を吐いている可能性もあるし、補給船撃沈を誤認している可能性もある。
通信で問いただしたいが下手に電波を出したら特定される危険もあるし、第一、僚艦は通信圏外にいるため無事でもやりとりをする事など出来ない。
真相は闇の中、自分で判断する必要がある。
だが、沈められた場合の事も考えないとならない。
通商破壊艦は単独行動が多いため自分で決めなければならないのだ。
「まあ、補給しなければならないし、通商破壊を止めるわけには、いかないしな」
しかし打てる手は限られている。
武器弾薬の補給の為に予定地点へビリリョフは向かった。
やがてビリリョフは薩南諸島の一角の合流予定の箇所に近づいた。
「波が荒いな」
補給船ハリコフとの予定地点に近づくとうねりが大きくなっている。
嵐が近づいているようだった。
発見される危険は少ないが操船が難しいし、補給活動への支障が懸念されるためオルロフは
「船影を確認!」
艦内に緊張が走った。
味方が襲撃された事もあり彼らは過敏になっていた。
「味方のレザノフです! 間違いありません!」
久方ぶりに見る味方の存在に歓声が上がる。
単独行動が多く孤独な彼らにとって味方との再会は嬉しいイベントだ。
「彼らも補給に来ていたのか」
一箇所に同時に集まると敵に見つかったとき一挙に撃破される恐れがあるのだが、向こうも補給では仕方ない。
合流点にはレザノフの方が近く、先に補給を受けるようだ。
早く休ませたいのだが、こういうときは先着順がルールであり、余計なトラブルで時間を浪費したくない。
「彼らの補給を優先して準備を。補給作業が迅速に終わるよう此方からも支援要員を」
オルロフが乗員に指示を出そうとしたとき、レザノフの方から爆発音が響いた。
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