第四師団吉田の第二回総攻撃 後編

「あの銃座を潰す! 誰か援護してくれ!」


 一部の血気盛んな兵隊が壕の中にある銃座を潰そうと外壕の端に向かって匍匐前進を始めた。

 敵の機関銃が再び発砲を開始するが味方も援護射撃を行う。


「ええい、ままよ!」


 戦いの興奮からかいつもは臆病な吉田も担いでいた無反動砲を構えて発砲、機関銃座を潰した。

 その間にでかい鉄の樽を背負った兵士が接近し、堀の外側から炎を吹き出した。

 援護した味方は樽から伸びたホースの先の筒を構えると、先から火を放ち、敵陣に浴びせた。


「うおっ」


 さすがに吉田はたまげた。

 火炎放射器など吉田は知らず、初めて見たからだ。

 鯉之助が考案し海援隊が実戦配備した

 炎は一直線に銃口へ向かっていき要塞を焼き尽くそうとする。

 勿論それは錯覚であり大半の炎は堡塁の表面を焼いただけだ。

 しかし一部の炎は銃口から侵入し中のロシア兵達を焼いた。

 奥に逃れても酸欠で意識を失うロシア兵が続出し、ロシア軍の抵抗が弱まった。

 その間に味方の一部の兵士がその外濠の端、機関銃が据え付けてある場所へ降りて行き、機関銃の銃口に手榴弾を放り投げた。

 機関銃は破壊され、さらに土嚢を積み上げられて銃口を埋めると、急いで作り上げたはしごを持ってきて堡塁への突撃路を作り上げる。

 かけられたばかりの、はしごを伝って兵士達は堡塁内へ飛び込んでいく。

 下手に時間を掛けるよりここで攻め込んで勝負を付ける方がよい。


「うおおおっっ」


 敵に暴露している時間を少しでも短くしようと、吉田は、はしごを駆け抜けた。

 だが堡塁の上に昇っても胸壁があり、その奥にある敵の陣地まで遠はい。

 ロシア軍はそこから機関銃をしきりに撃っている。


「うおりゃっ」


 吉田は再び無反動砲を構えて機関銃に向かって撃った。

 機関銃座に命中し銃撃は沈黙する。


「好機だ! 突撃!」


 吉田が機関銃座を潰している間に、胸壁に昇った味方歩兵が突撃した。

 小銃の射撃も行われるが散発的で、第四師団の歩兵は敵の陣地に飛び込む。

 白兵戦が行われたが、飛び込んだ日本軍の方が多かった。

 日本軍は数で圧倒しロシア軍を制圧、堡塁各所を、占領していく。

 やがてま山頂部を制圧すると、反対側の斜面、旅順方面に移動して連絡路を上ってくる敵の増援を攻撃する。

 今度は昇ってくる連中を上から打ち下ろすので楽だった。

 手榴弾も上から投げ込み、ロシア兵の接近を阻む。

 機関銃が持ち込まれた後は更に容易で、ロシア軍の奪回部隊に掃射を浴びせ打ち抜いてゆく。


「はあ、なんとかなったわ」


 攻撃目標の堡塁を占領し日章旗が掲げられたのを見て吉田は安堵した。

 すぐに日章旗を狙ってロシア軍が砲撃を始めたが、素早く占領した壕に潜り込み、砲撃を回避する。

 ロシア兵を守った忌々しい壕だったが、その防御力が高いことは吉田達は経験済みであり、安心して休むことが出来た。


「この先の堡塁も占領しろだと!」


 だが、不穏な指令が流れてきた。

 更に奥にある堡塁を攻撃せよというのだ。

 旅順は旅順港を中心に山々が二重に囲んでおり、吉田達が攻め落としたのは外側の山々にある堡塁である。

 内側を占領できれば確かに旅順は陥落するだろう。

 だが、自分達が占領した場所から内側までの間には何もない。

 これまで砲撃から守ってくれた塹壕がない。

 何もない平野を走って行くなど、敵の砲撃を浴びることになり自殺行為だ。

 それに占領したとはいえ、部隊には死傷者が多く、攻撃できるような状況ではなかった。

 結局、吉田達は、攻撃命令を実行不能として拒否した。

 上級司令部も損害報告を受けて実情を知り、命令を撤回。

 現状維持、防衛線を固めるように指示した。


「あー、しんどい。ぎょうさん仲間も死んだし」


 吉田は不平を言うが、第四師団はまだマシだった。

 首都である東京を拠点とする第一師団、古都であり建築が盛んな金沢を拠点とする第九師団も塹壕を掘り進めていたが、第四師団程熱意はなく、敵陣地まで走る距離が長かった。

 そのため、敵の陣地に取り付くまでに大きな損害を受けていた。

 第三軍の損害は膨大な数となり、第三軍総司令部は第二回総攻撃を中止させた。

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