名誉連隊長代理
「迎撃しろ! 日本軍など叩き出せ!」
堡塁にロシア軍指揮官の号令が響く。
壕で日本軍を防ぐハズだったが、予想外の重砲による砲撃と銃座を潰された為、侵入を許してしまった。
だが、侵入した敵は少数であり、応援が来るまで持ちこたえれば排除できる望みはある。
堡塁内部での肉弾戦で持ちこたえようとロシア軍は必死だった。
だがそこへ爆発が起きる。
日本軍が保有する手榴弾が爆発し、兵士が死傷する。
死傷したのも痛いが、兵士が怯んだのが一番大きな被害だった。
前線が崩れ、敵兵の突入を許してしまった。
「怯むな! 迎撃だ!」
先頭に立って叫んだ指揮官だったが、駆け寄ってきた白髪の男が日本刀で突き刺した。
「がはっ」
会津藩の刀工兼定によって鍛え上げられた刀身はロシア軍士官の身体を貫き、絶命させた。
「進め! 敵が怯んでいる隙に奥深くへ行け!」
白髪の男は引き抜いた和泉守兼定を掲げ、部下を叱咤し先頭に立って進む。
「土方連隊長! 危険です!」
「黙れ! 好機の逃すなど出来るか! 老いぼれを気遣うなら突撃して安心させろ!」
第一烈士満<新撰組>名誉連隊長代理、土方歳三は部下の制止も聞かず突撃した。
狭い通路内では取り回しの難しい小銃より、短い刀の方が刺突に便利だった。
特に幕末の京都で倒幕派を取り押さえるため狭い建物内で戦闘を繰り返した土方には戦いやすい場所だった。
箱館に逃れ、明治政府と講和した後も、樺太へ転戦しロシア軍相手に戦い続けた土方は戦いの鬼であり齢七十に達しても衰えてはいなかった。
さすがに正式な軍属ではなかったが名誉連隊長代理として前線に無理矢理立っていた。
「このまま敵の混乱に乗じ堡塁を占領する!」
「は、はい! 連隊長!」
「連隊長ではない! 名誉連隊長代理だ!」
訂正しつつロシア兵を斬り殺して土方は進む。
「近藤さんほどではないからな。儂は代理でしかない」
土方は呟きつつも修羅のような戦いを見せる。
抵抗の激しい箇所には手榴弾を投げ込み、混乱させ、その隙を突いて突入し白兵戦に持ち込み勝利した。
土方だけではなかった。
伊庭八郎や桐野利明など幕末に剣客あるいは人斬りとして名を馳せた者達が参戦していた。
彼らの突撃の前にロシア兵は屍をさらして行き、遂に堡塁を占領した。
ロシア軍は奪回を試みたが、素早く兵士を並べ、上から銃撃を浴びせた。
それでもロシア兵は突撃したが、堡塁へ突入すると待ち構えていた土方らが白兵戦を仕掛けてくるため、撃退された。
「死に損ないじゃなくて生き残りだな」
土方達の戦いぶりを見て某漫画の台詞をしみじみと鯉之助は実感した。
だが彼らの活躍もあり樺太師団と海兵師団は堡塁の一角を占領することに成功し海援隊の二曳きの旗が翻った。
「兄者、やりもうしたぞ」
堡塁が占領されたのを見て、嬉しそうに隆行が言う。
「いや、終わっていない。すぐに交通線の確保だ。敵が反撃してくる。急いで増援を送って確保するんだ」
「え?」
「忘れるな。確保した陣地と味方の陣地の間は二〇〇メートルの平野だ。そこは今、もう砲撃を受けている。増援も補給も送れない。確保するには砲撃を黙らせて補給と増援を送るんだ。それと、確保した堡塁まで塹壕を掘れ、出来なければ突撃路に土嚢を積んで砲撃の爆風よけにするんだ。それと迫撃砲と機関砲を急いで確保した堡塁に上げるんだ。そこを拠点にして砲台を攻撃しろ」
樺太での経験から敵の堡塁を確実に占領することが必要なことを鯉之助は身をもって経験しており、そのときの記憶と強烈な体験が強い口調となって言い放つ。
「わ、わかりもうした」
隆行はすぐに引き返して部下に命じた。
すぐに砲撃が開始された。
砲台に集まっていた大砲を撃破すると次々と兵士が駆け上っていく。
銃撃を浴びせるロシア兵もいたが、堡塁に残っていたロシア製の兵器までも使い、頂上を牽制する。
やがて頂上まで登りきった海兵師団および烈士満は手投げ弾を次々と放り投げ砲台の中を掃討すると突撃を敢行した。
山の上の砲台を制圧し二曳きの旗が翻った。
「確保できたが、他の師団は大丈夫か」
不安から鯉之助は呟くが残念な事に的中してしまった。
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