旅順要塞早期攻略決定

「旅順を攻略するだと! それも数日以内に?」


 連絡業務で皇海を訪れた真之の言葉に鯉之助は驚いた。


「もっと後の予定だったんじゃ? しかも攻城砲も無しに歩兵の突撃だけで落ちる訳がない」


 旅順は非常に強固な要塞であり、史実より守備兵力が減っているとはいえ、短期間で歩兵強襲程度で落ちるような場所ではない。

 だからじっくりと攻略する事を鯉之助は提案していた。

 それもただ時間を掛けの野ではなく旅順側の戦力を減らすために周囲の堡塁を攻略。

 さらに北西部にある防衛線の外にありながら、旅順港内が見渡せる二〇三高地を占領し、弾着観測点として活用。旅順に日夜を問わず雨あられと砲弾を降らせるという積極策だ。

 そのために攻城砲の手配などを行っている。

 これに艦砲射撃を加えれば、旅順は戦わずして有効性を失うとしている。


「太平洋艦隊が健在な今、封鎖を長く続行する訳にはいきません。バルチック艦隊の回航が決定目前という情報も入っています」


 秋山は事情を説明した。

 だが、バルチック艦隊がやってくるとなると話は別だった。

 旅順を解放され拠点とされることを恐れていた。


「いくら、来航しても施設が破壊されていたら拠点にはならないでしょう」


 軍艦は長期間、一ヶ月から二ヶ月、適切な支援、燃料や食料の補給があれば半年は洋上を航行出来る。

 しかし、それは拠点で整備を行った上での話だ。

 艦底の牡蠣殻掃除、機関の分解整備、傷んだロープなどの消耗品の交換、食料水の補給が出来なければ船は動けない。

 事に蒸気機関が搭載されてからは、機関の重要性が増しておりその維持が船の性能を発揮するか否かを決める程になっていた。

 それらを請け負う旅順の施設を砲撃で破壊すれば良いと鯉之助は考えた。


「どれだけ損害を与え、能力を失っているか分からない。それを確認する手段がなければ出来ると判断するべきです」

「たしかにそうだけどな」


 秋山の言葉に鯉之助は同意した。

 戦果の確認は必要だ。

 敵の能力を見誤るべきではない。

 戦果を誤認して敗北した例は多い。

 太平洋戦争における台湾沖航空戦など好例で夕方から夜間の薄暗い攻撃を行い、練度が低かったこともあり、自爆機の炎上している様子を敵艦の撃破と勘違いしての誤認が相次ぎ空母一一隻撃沈、八隻撃破と報告し、フィリピン決戦で状況判断を間違い、連合艦隊が壊滅し陸軍が壊滅する原因となった。

 その二の舞を舞うべきではない。

 鯉之助は転生したことによって歴史を知っているが、今の旅順の状況をしているわけではない。

 確実に旅順の機能を停止させるのに占領という手段は悪いものではない。適切な攻略手段がなく、損害が出るだけという転に目を瞑れば。


「しかしあそこは難攻不落の要塞だ。いきなり要塞攻略など」


 満州平原に置いて決戦を求めている日本陸軍は旅順攻略は行わず監視のみの予定だった。というより旅順に割ける兵力が無かったからだ。

 兵力に劣るに日本がロシア軍主力と戦うには日本陸軍の総力を挙げる必要があり旅順に回す予定はない。

 そのため攻略の手段も陸軍は持っていなかった。


「大本営も旅順の太平洋艦隊の健在を憂慮しています。ウラジオストック艦隊のように出撃し大連や営口への航路を襲撃され補給を断たれる事を恐れています」


 健在な艦隊が旅順に居ることは恐ろしいのだろう。


「それに我が方も優位ではない。初戦、八島の戦列離脱がいたい」


 秋山は沈痛な面持ちで事情を説明する。

 今、連合艦隊の貴重な六隻の内、二隻が撃破され戦列から離れている。

 二隻ともロシア軍の敷設した機雷により損傷してしまったのだ。

 いつも通り、旅順を敵砲台の射程外から砲撃していたのだが、そのコースをロシア軍に見抜かれ、夜間に出撃した駆逐艦によって機雷を敷設されていた。

 翌朝、二隻がいつも通り旅順に砲撃を仕掛けていたら、機雷に接触し、損傷を受けた。

 幸い搭載数の少ない駆逐艦のため敷設された機雷の数が少なく二隻とも、被害は軽く沈没は免れ、円島の明石が応急修理を施し、喫水線下の穴を塞ぐためドック入すべくり日本本土に戻った。

 もし機雷敷設艦が健在で、敷設される機雷の数が多かったら数カ所で同時に触雷し撃沈されていただろう。

 その意味で鯉之助が開戦初頭に機雷敷設艦を撃沈したのは正しかった。

 だが、沈没しなかったとはいえ、戦艦二隻が戦線を離脱したため、連合艦隊の戦艦が三分の二になって仕舞った。

 戦艦の隻数は海援隊を含めればいまだに日本側の方が多いが太平洋艦隊の出撃に備えて交代で監視する必要があり、数が足りない。

 貧乏国日本の現状がここにあった。

 いや、戦場の常だ。

 常に十分な兵力を全ての戦場に送り届けることなど、何時の時代、誰にもできない。

 チート知識を持つ鯉之助でもここまでが限界だった。

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