大石橋の戦い
敵の大軍に挟撃されてしまっているが戦うしかないと判断した隆行は矢継ぎ早に命令を下した。
隆行は大石橋の東方にある山へ海兵師団主力を移動させた。
少しでも遮蔽物を増やし損害を減らす。
だが、移動途中鉄道の線路を破壊した上、鉄道を大砲の射程内に収め、シベリア第一軍団の退路を断つ。
「北方の敵軍団を押さえ込みもうす」
南北の軍団を合流させず、各個撃破させることが目的だ。
この作戦は、遼東半島のロシア軍の退路を塞ぎ包囲殲滅するのが目的だ。
南にいるシベリア第一軍団を逃さないのが作戦で重要だった。
北方の部隊は叩いても北に逃げられる。だが、南は退路などない。
シベリア第一軍団は後ろから第二軍の三個師団に追いかけられている。
営口上陸の報告を受けて得利寺からすぐさま陣地を放棄して逃げ出したのだ。
敵が根負けするまで包囲し、脱出させなければ日本軍の勝ちだ。
「北と南に戦闘配備」
隆行が命令した直後、南方で砲声が響いた。
見ると海から船が丘に向かって砲撃していた。
海兵師団を上陸させた艦隊所属の砲艦が海岸付近の鉄道沿いに接近してくるシベリア第一軍団へ砲撃を浴びせていた。
「兄者の支援じゃ」
開城から砲撃を行う砲艦を見て隆行はすぐに理解した。
上陸直後だと重装備がないため支援のために付属させている艦だ。
接近できないように砲撃を行っている。
「北方の敵部隊接近しています」
「近づけさてはいかん! 火力を集中させて撃退するでごわす」
上陸した海兵師団は野戦砲などの重火力が足りない。迫撃砲や無反動砲で撃退するしかない。
だが山の中に入り込んで敵の野戦砲の砲撃から逃れる。
直線的に弾が飛んでいく野戦砲だと山の陰に入る海兵師団は狙えない。
だが、空高く弾を打ち上げてから落下させる迫撃砲弾は山を越えて飛ばせる。
接近してくるシベリア第四軍団を海兵師団は砲火で抑えていた。
「南方の敵軍団接近してきます」
北のシベリア第四軍団を相手にしている間に艦砲射撃の雨の中を進んで来た、シベリア第一軍団がいつの間にか接近してきた。
砲撃で隊列はバラバラになりボロボロの状態だったが、前進し続けていた。
「あんな状態で良く進めもうすな」
「退路がありもはんからな」
シベリア第一軍団は包囲され脱出路は北へ行くしかない。
そのため艦砲射撃を受けながらも、北上するしか無かった。
「敵軍、西へ進路を変更します」
海兵師団がこもっている大石橋の近くを通らず少し西側に進路をずらし営口と大石橋の間を突破しようとしていた。
「第五師団に側面攻撃を要請するでごわす」
営口に上陸中の第五師団にシベリア第一軍団の進路の横から攻撃させれば大打撃を与え、包囲させることが出来る。
「何をしているでごわすか!」
いらだたしげに隆行が叫ぶ。
第五師団は動こうとはしなかった。
前を通り過ぎるシベリア第一軍団へ砲撃のみで兵員を展開して遮るようなこともしない。
「おいどん達で防ぐでごわす」
「無理です師団長。北方の敵の対応をしなければなりません」
すでに北方から敵軍団がやってきており対応する必要があり、さらにもう一個軍団の進路を塞ぐなど兵力不足も甚だしかった。
「……シベリア第一軍団への砲撃を強化するでごわす」
砲撃を強化してシベリア第一軍団をできる限り砲撃し損害を与えるように命じた。
しかし、包囲網は不十分で第一軍団の撤退を許してしまった。
さすがに猛砲撃の元、鉄道も寸断されたため大量の物資と重装備を残して日本軍に接収された。
だが、一個軍団をもう一歩のところで逃したのは非常に惜しかった。
返す返すも残念だったが、致し方なかった。
「追撃するでごわす」
逃げ去るシベリア第一軍団を見て隆行は命じた。
ここは敵軍に追い打ちを掛けなければ気が済まなかった。
だが新たな情報が入ってきた。
「第四軍より報告です。析木城で敵一個軍団に遭遇、これより戦闘に入るそうです。救援を要請しています」
第四軍は第一〇師団のみの編成だ。本来は第五師団が後続して指揮下に入る予定だったが、大石橋への上陸作戦に使われたため、一個師団プラス付属部隊しかいない。
これで一個軍団を相手にするなどとても無理だ。
「直ちに析木城の後方に向かうでごわす」
隆行は直ちに海兵師団を向かわせた。。
「兄者よ済まぬでごわす。ロシア軍を包囲できず申し訳ないでごわす」
作戦終了後、営口沖に停泊している皇海を訪れた隆行は鯉之助に頭を下げた
「気にするな。今回は第五師団の不手際のせいだ。むしろ一個師団で良く持ってくれた」
隆行達海兵師団が鉄道線を砲撃で封じてくれたお陰で第一軍団は重装備を以て退却できず、その装備品の多くを日本軍は接収していた。
燃やしきれない膨大な物資の山に日本軍は驚いたが、物資不足の日本軍はありがたく使わせて貰う事にした。
「それより聞いたぞ析木城で苦戦していた第四軍を助けたそうだな」
第四軍苦戦の報告を受けた隆行は独断で救援に向かうことを選択した。
第一軍団を一個師団で追いかけても仕方ない。
ならば後方の味方を助ける方が良い。
第二軍も準備を進めているだろうが海兵師団の方が身軽であり火力もある。
自分たちが先に行けると隆行は判断し進ませた。
事実、海兵師団は第二軍に先立って析木城に到着し野津大将率いる第四軍を止めているザスーリチ中将率いるシベリア第二軍団の後方を攻撃、救援した。
シベリア第二軍団は後方をたたれたため、退却を開始したが海兵師団が退路を塞いでいた。
しかもあとから来た第二軍の急速な包囲のため、多数の重装備を置いて険しい山岳部を通っての退却となり、シベリア第二軍団は半数近い兵力を失ってようやく遼陽へ逃れた。
ここでも大量の物資が残されており日本軍に接収され、活用されることになる。
「よくやってくれた」
鯉之助は弟のような隆行の頭を撫でた。
「あ、すまん」
つい昔の癖で撫でてしまった。
もうすぐ四十という男に年下とは言え三〇過ぎの男が撫でられるのは嫌だろう。
「あいがと、兄者!」
だが強い薩摩弁で隆行は感謝を述べた。
「今後も一層奮戦するでごわす」
「いや、海兵師団には新たな戦場へ向かって貰うよ」
「何処でごわすか?」
「旅順だ。要塞に籠もった連中を叩き出すために兵力が必要なんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます