南山の戦い 終結
ステッセルの目の前の地面に突如穴が穿たれたと思うと、地面が大きく膨れ上がり噴火のように火柱が上がった。
火は何もかもを土や陣地につかった木材、そして兵隊を空高く放り上げた。
そして再び重力に引き寄せられ雨のように降り注ぐ。
大量の土砂とその他が地面を覆い埋めていく。陣地でさえ埋まる場所が発生していた。
ようやく落ち着いたかと思ったとき、再び、砲撃が着弾した。
地下に設けられた掩蔽壕へ逃げ込む将兵もいたが、彼らのいた壕に直撃した砲弾は厚い土の壁など意に介さないかのように、掘り返し空高く放り投げ彼らを空中で混ぜ合わせた。
空から降り注ぐ土砂は陣地を埋めていく。
そして再び弾着が起きて掘り返す。
その繰り返しだった。
日本第二軍の野砲による砲撃に耐えたロシア軍野戦陣地だったが、戦艦である皇海の一二インチ砲に耐えられなかった。
地面に大きなクレーターを穿ち、塹壕をまるごと消滅させるなど防御の想定外だ。
反撃しようにも戦艦は野戦砲の射程外にいる。
これまで粘り強く日本軍の攻撃に耐えていた将兵もこれには愕然として動きを止める。
表だって逃げ出す者はいない、衝撃が強すぎて思考停止してその場に立ち尽くしてしまった。
つい先ほどまで一緒にいた仲間が一瞬にして消え去り、空中で混ぜ合わされる様を見せられては動揺するなという方がむずかしい。
ロシア軍の戦意は急速に低下していった。
「敵軍接近してきます」
第二軍の攻撃が再開された。
皇海によって穿たれた陣地のほころびに殺到してきていた。
破壊された陣地は最早機能しない。
抵抗してもそれによる陣地は無く、いや立て籠もったとしても地面と一緒に吹き飛ばされるだけだ。
「司令官」
「……降伏する。白旗を揚げてくれ」
こうしてステッセルおよびフォーク率いる一個師団一万七〇〇〇は日本軍に降伏した。
「長官、ロシア軍が降伏しました」
「そうか、良かった」
鯉之助は報告を受けて安堵した。
「はい、それと大連の町を占領したとの事です」
「うん? 時間が早いし離れすぎていないか?」
「じつは海兵師団所属の騎兵大隊が進軍し無防備な市庁舎へ。殆ど守備隊がいなかったため降伏しました」
「無茶なことをする」
薩摩隼人の血を色濃く受け継いでいるためか、血気に逸る連中が多い。
少数でも敵中へ躊躇無く突進していく。
元々少人数で戦闘行為を行うことが多い海援隊からの移籍組が多く戦機を見るに敏な連中が多く、敵の弱点を突くことになれている。
「それで確保できたのか?」
「はい、すぐに第二軍の歩兵第一師団が進軍し確保したそうです」
「それは良かった。使える港湾が確保できる」
大連は遼東半島の先端に近い港湾都市だ。
大きな湾を持ち多数の船が停泊出来る上、港湾施設が整っている。
旅順は湾口が狭いため、外海から見えにくく秘匿できるが艦船が通りにくく使いにくい。
大きく広い港を持つ大連の方が積み下ろし港兼兵站基地として使いやすく、大陸のロシア軍と対決するためには必要不可欠な港だった。
勿論、旅順攻略の拠点としても使える。
「長官、西郷師団長から捕虜にしたステッセル及びフォークの処遇について尋ねてきていますが」
「劣勢におけるロシア軍の敢闘を賞して二人を解放するように。大砲二門に将兵二千名が小銃で武装して撤退することを許し随行を許す」
「甘すぎるのでは?」
「いいんだよ。受けを良くしないと」
「戦場の美談を作るのですか?」
「そうだよ」
国際的な支持を得なければ、この戦争に日本は勝てない。
ならば徹底的に他国から同情と尊敬を勝ち取るために戦場の美談を作らなければならない。
一部将兵に武装したまま撤退させるのを許すのもその一環だ。
「それに、彼らは役に立ってくれるよ」
「日本軍の為に働くと?」
「ああ、結果的に働いてくれる」
フォークもステッセルも史実では、ぼろくそな評価を受ける存在だ。旅順要塞のお荷物で脚を引っ張る存在として書かれている。
だが積極的なコンドラチェンコを抑え、要塞の出血を最小限にして半年近く旅順を保てたという評価もある。
鯉之助はとりあえず、指揮系統に混乱が生じるようにした。
「さて、次の作戦展開を行おうか」
鯉之助は南山が取れたことで気をよくして。更なる進軍を第二軍に求めることにした。
しかし、第二軍では大問題が発生していた
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