騎兵第一旅団
「全く、無茶を言ってくれる」
秋山好古騎兵少将は馬に乗りながら愚痴っていた。
陸軍大学第一期で唯一の騎兵将校であるため、日本の騎兵創設の中心人物となっていた。
日本では騎兵集団編成など無理と判断していた。
だが、ロシアには世界最強と言われるコサックの大集団が居り、対抗するには騎兵が必要だった。
そこで、弟真之の友人である鯉之助の海援隊に協力を要請。西洋馬の輸入と樺太での繁殖、品種改良を行った。
海援隊の協力もあり馬の生産は順調に進んだ。
だが予想より日露戦争が調達途中で早く始まってしまった。
計画で必要な一万頭には足りず六千頭を用意したところで開戦となる。
それでも史実の三千頭より多いが好古には知るよしもないし足りなかった。
これでは騎兵による突破や後方襲撃など無理で遊軍程度の働きしか出来ない。
なのに与えられた命令は敵中への強行偵察及び襲撃だ。
しかも海援隊の才谷鯉之助中将からの強い要望によってだ。
「だが、これこそ騎兵の戦いだ」
しかし、局面によっては騎兵の働きは十分に出来る。
奇襲上陸した今がチャンスだった。
ロシア軍は日本軍の上陸を警戒していない、いや、警戒していても予想地点が広すぎて特定できなかったようだ。
そのため極薄い警戒線のみ。
大規模な兵力を長い海岸線に散らばらせる羽目になった。
分散した兵力を各個撃破出来る好機だ。
敵も上陸を知れば、部隊を集結させて反撃してくるだろう。
だが機動力に優れた騎兵旅団を率いて集結前の敵部隊を各個撃破する機会がある。
そのためにも騎兵旅団で暴れ回るつもりだった。
実際、ロシア軍の陣地や移動する部隊を見つけては攻撃し、撃破していった。
騎兵第一旅団は好古の考えを元に編制された部隊で、騎兵だけでなく砲兵や工兵も騎乗させた機動部隊として行動できるようになっている。
敵を見つけると有利な地点へ機動力で急行し、高所から攻撃を浴びせ、騎砲兵で砲撃し、撃破する。
敵が優勢ならそもそも接近しない。
騎兵の機動力で回避し、不利になったら逃げる。
そんな戦い方を続け、損害を受けずにロシア軍に確実に打撃を与えていた。
「前方に鉄道線があります!」
部下の報告を受けて双眼鏡を見る。
「東清鉄道の支線か」
ハルピンから分岐し旅順に向かうロシアの鉄道線だ。
「襲撃する。鉄道線を破壊する」
この鉄道線を破壊すれば、旅順要塞とロシア満州軍を分断できる。
「破壊する」
警戒が薄いところを狙って線路に向かう。
爆薬を仕掛けてレールを破壊するだけで良い。
それだけでも列車の移動を妨げ、敵の集結を遅らせることが出来る。
すぐさま線路に取り付くと部下の工兵が下馬して爆薬を仕掛ける。
「敵列車接近!」
旅順方面を警戒していた部下が大声で報告する。
好古は双眼鏡で確認する。
「警備兵が多い。それでいて豪華な客車もいる」
列車の編成を見た好古はおかしな点に気がつき、重要な車両と判断した。
「爆破準備完了!」
「総員撤収! 物陰に隠れろ! 近くに来たら爆破する。電線を伸ばせ!」
導火線に火を付けて爆破するより、手動で爆破することを選んだ。
「爆破!」
列車が載掛かったところで爆破。
派手な爆煙が立ち上り敵の列車は急停車する。
「撃て!」
止まったところで部下に好古は銃撃を命じた。
物陰から銃撃する部下に対して遮蔽物のない列車のロシア兵士達は次々と倒れていく。
機敏で訓練された動きだったが、地の利で負けていた。
銃撃を受けて倒れて行き、徐々に好古達が数で圧倒していった。
「突撃!」
敵の数が少なくなったところで突撃を命じた。
列車に取り付き、占領する。
「う、撃つな!」
派手な装飾の制服を着た人物が狼狽えながら好古達に言う。
「秋山閣下! 敵の将軍らしいです」
部下の報告で会いに行った好古は人物を見て目を大きく見開いて驚いた。
極東総督アレクセーエフだった。
第二軍の上陸に驚き、本国から孤立すると恐れたアレクセーエフは、指揮系統の維持を理由に奉天まで撤退すると宣言し、旅順から逃げ出した。
その列車を好古達は捕らえたのだ。
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