ハワイ王国存続の影響

 ハワイ革命を乗り切ったとはいえ、再びハワイにアメリカが手を出さないよう鯉之助はアメリカへの投資を進めると共に、その後も機に乗じて様々な手立てを打っていた。

 例えば米西戦争でキューバのスペイン人が保有するサトウキビのプランテーションをあらかた買い取り、それを共和党支持者と民主党支持者に売った。

 彼らは砂糖を米国本土に送っていって大もうけをした。

 しかし、そんなときハワイで問題が起きていた。

 フィリピンへの太平洋経由の補給路を確保するためにアメリカ国内でハワイを併合しようという動きが出てきたのだ。

 アメリカの動きを警戒したハワイ王国は米西戦争とその後の米比戦争を理由にホノルルへのアメリカ海軍艦艇の入港補給が禁止されたために、力尽くで手に入れようとしていた。

 海援隊も協力したが、何時までも押さえておく事は出来ない。

 しかし、ハワイ併合に待ったをかけたのが先のアメリカ国内にいるキューバで製糖業を行っている会社だった。

 ハワイの砂糖は米国の関税によって高くなっている。

 国内産業保護のため保護主義の米国は海外からの製品に関税をかけている。国家収入の半分近くあ関税になることもある。

 ハワイの砂糖は米国の関税のために売れにくい。

 しかし、併合されれば大量のハワイ産の砂糖が米国に流入することになり、キューバの砂糖は熾烈な競争にさらされることになる。

 そのためハワイ併合反対のキャンペーンを売った。反米国帝国主義の運動もあり、資金を得た彼らは積極的に反対した。

 拡大主義のマッキンリーも選挙のスポンサーの意向を無視することは出来ず、ハワイの併合は中止されることになった。

 また中米での反米活動があり、そこへ艦艇を回す必要が出てきたため、フィリピンへの増援は取りやめ、それどころか部隊を引き抜かれ転用される。

 そのためフィリピンの米国軍は補給を断たれた状態に陥り、フィリピン革命軍との戦いで敗北する原因の一つとなる。

 この事件もありハワイ王国の支援に感謝したフィリピン共和国は独立後、直ちにハワイ王国との国交を樹立。

 日本の有力な友好国となっていた。

 カイラウニを初め日本、特に海援隊に恩義を感じる親日派がハワイに多い。


「ハワイは日本から受けた多大な恩をお返しします。どんなことでもご助力します」


 マーカスの前で発したカイラウニの言葉は明確な日本への支持表明だった。

 参戦しても無視されるだろうし、ハワイの国力は微力。

 海軍力、陸軍力とも殆ど無い。

 だが、中立国としてハワイ船籍の船舶が日本へ入港することは可能だ。

 ハワイの商社が中国の支店へハワイ籍の船で物資を送ると言えば、日本近海を徘徊するロシアの巡洋艦も臨検したとしても下手に接収できない。

 その後、ハワイ籍の商社が実は海援隊に経営権を握られていて、途中で進路変更して日本に運ばれて日本の軍需工場に売り払われる事になろうとも。

 ハワイだけでなく、フィリピンも日本への好意的中立を行っており、日本が海外から輸入するルートは確保されている。

 先日の鴨緑江渡河作戦の成功で、外債の販売の目処がついた事もあり、日本の勝ち目が見えてきている。

 外貨を得て輸送路を確立した日本は継戦能力が一段と高まっている。

 日本本土だけでなく、その背後の太平洋も日本軍の有力な後方策源地になりつつあった。


「日本の勝利は間近に迫っているようだね」

「ああ、勝たなければ滅亡しかないからね。死力を尽くすさ。いや準備は既に整えている」

「ええ、日本は勝利するでしょう。前祝いにハワイのお料理などでおもてなしいたしましょう」

「ありがとう」


 その日はマーカスを含めて賑やかな宴会となった。

 ハワイの恩人である東郷長官も呼ばれ皇海の公室で、ハワイと日本の料理が振る舞われ、戦争の先行きが見えたことに対する宴となった。


「ところで今度の戦いは何処になるんだい?」

「満州方面が重要な地点だからね。満州に向かうことになる」

「第一軍はそのまま進撃か。第二軍も編成されたと聞いているが何処に向かっているんだ」

「そこは軍事機密だ。そうそう教えられない」


 マーカスを信用していないわけではなかったが、軍事機密であり鯉之助はしゃべらなかった。

 マーカスも深くは追求せず沿海を楽しんだ後、用意された宿泊船へ移っていた。

 直後、皇海は密かに泊地を出港した。

 次期作戦に参加するために。

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