外人部隊 金村

「行くぞ!」


 第一二師団も早かったがその外側を進む金村率いる外人歩兵第一連隊は、さらに素早かった。

 このあたりの地理に詳しい朝鮮族出身者の道案内で長距離にも関わらず、短時間でロシア軍の背後へ走り抜けた。

 そしてロシア軍の退路へ迫っていた。


「必ず戦果を上げて朝鮮の力を見せつけろ」

「おう!」


 朝鮮人兵士達の先頭に立って渋滞するロシア軍の隊列に突っ込んでいった。


「いけえええっ」


 金村は自分の鬱憤を晴らすように軍刀を抜き、振り回して暴れ回った。


「つっこめええっっっ」


 その動きは鬼神のようであり、見る者を恐怖に震え上がらせた。

 まるで何もかもが難いように斬りかかる。


「とおおおおおおおっっっっっっ」


 金村は日本人ではなかった。彼の家は朝鮮の貴族だった。

 ソウルに生まれた彼は、貴族の家で幼少期を過ごした。

 しかし、父親が国を憂う独立党に与していたことから悲劇は始まった。

 未だに冊封体制の中に止まろうとする朝鮮王国を日本のように近代化させる動きに加わっていたが、清に親しい事大党に邪魔されていた。

 そのため日本と海援隊の協力でクーデターを行い一挙に守旧派を一掃し朝鮮を開国、近代化しようとした。

 そうして起こした甲申政変だったが、圧倒的多数の清軍と日本公使の弱気で三日天下に終わった。

 国賊となった独立党は追われ、逃げまどった。

 そのとき助けたのが海援隊だった。

 彼らは朝鮮各地から独立党とその家族を救い出し船に乗せ、日本や上海に亡命させたのみならず資金援助を行い彼らを保護した。朝鮮に残った同志が捕らえられた後拷問を受けて処刑された事もあり、脱出した一部は商売を始めたが、多くは海援隊の元で働き始めた。

 いつの日にか朝鮮に戻り、開国し近代化するために。

 金村の父親も同じで、海援隊の元で働いていた。そして日清戦争が始まると、海援隊兵士として参戦し、朝鮮を解放、清の従属国から独立する事を夢見ていた。

 戦争は勝利に終わった。朝鮮は独立し甲午改革と呼ばれる改革が行われ近代化の道を進んだ。

 しかし、ロシアによる三国干渉が始まると状況は一変した。

 清国を倒した日本よりロシアが強いことを見せつけられ、親露派が誕生。

 朝鮮王国国王の高宗がロシア大使館へ逃げ込み政務――多種多様な利権を諸外国に明け渡した露館播遷がおきて朝鮮は事実上、独立を失った。

 これで朝鮮に見切りを付けた金村は、名字を日本風にして海援隊に属した。

 朝鮮の近代化を夢見ているが、独立に関しては冷めたような感覚を抱いている。

 しかし、一矢報いたいという気持ちは変わらない。

 アジアを侵略する列強を防ぐために戦う意思は変わらない。

 日清戦争後、アジア各地を海援隊員として転戦したこともありその気持ちは強い。

 だからこそ、外人歩兵第一連隊は前に出ていた。

 彼らも金村のように朝鮮王国の近代化を目指し王国に裏切られた。

 自分たちを捨てた王国に力を見せつけるために進んだ。

 背後から爆発音が連続して響いた。


「砲兵の援護が始まったぞ! 恐れるな!」


 砲兵の援護が始まった。砲弾が次々とロシア軍の陣地へ撃ち込まれていく。

 発砲音は止むことはなかった。

 連続した発砲音が、一分間に五発以上は放たれておりロシア軍の陣地に降り注いでいた。

 海援隊の工廠で作られた三三式野砲。フランスのM1897 75mm野砲のライセンス生産砲だ。世界初の駐退機を採用した大砲で、それまでの大砲は撃つ度に反動して後退していたが駐退機によって衝撃が吸収されたため、同じ位置から何度も撃つことが出来る。

 東アジアでは武器需要が高まっており欧米からの輸入が求められていた。

 しかし、欧米からは東洋までは遠く、メンテナンスも困難だ。

 そこで、海援隊が欧米各国に日本での生産代行と供給を申し出たのだ。

 自社の設備を使わずに量産できるとあって各国はライセンスを海龍商会と結んだ。

 結果、海援隊は海龍商会が保有する室蘭の兵器工場で各国の最新鋭の兵器を生産することになり、多大な利益と戦時に置いて武器を生産する設備を整えることが出来た。

 砲兵はロシア軍を圧倒する発砲速度で制圧して攻撃を助けた。

 元朝鮮人の兵士達はは銃剣を前に繰り出し、ロシア兵に襲いかかっていった。

 後方と分断されることを恐れたロシア軍は後方の鳳凰城へ退却を開始し山あいの道を登り始めた。

 だがそこへ山岳師団が襲いかかった。

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