各師団の性格
作戦は順調に進んだ。
沿岸部では海援隊と海軍から送り込まれた砲艦が連日ロシア軍の陣地へ砲撃を繰り返していた。
攻撃を受けたロシア軍は上陸作戦に備えて部隊を沿岸部、鴨緑江の河口近くに部隊移動させた。
そして渡河を行おうと偽装している第二師団の陽動作戦を本作戦と思い込み執拗に妨害したため上流部は薄い警戒しか行っていなかった。
「作戦は上手くいっています」
各部隊の情報を纏めていた藤井少将が報告した。
しかし安堵したのも束の間だった。
「東京の大本営より直接通信です」
通信兵が報告を上げた。
この時代、無線の範囲はせいぜい数十キロ、遠距離には大きなアンテナ設備が必要となる。
しかし、鯉之助はメタ情報により14Mhzならば10mのアンテナを立てれば遠距離通信、東京からシベリアまで通信できることを知っていた。
東京の大本営から直接指示を受けたり情報を得ることが出来るのだ。
しかし、良いことばかりではなかった。
「第二軍の上陸作戦が船団の遅れで遅延しております。渡河作戦を延期せよとの命令です」
「作戦を開始したばかりだぞ」
藤井少将は声を荒げた。
「済まん。貴様は受信しただけだな」
だが萎縮した通信兵を見てすぐに謝り、再び声を荒げた。
「大本営は何を考えているんだ。作戦は始まったのだぞ」
「参謀長、大本営に返電しちょくれ」
だが黒木は動揺せずに答えた。
「鴨緑江渡河作戦の成否は今後の戦役全体を左右する。好機を逃しては戦役は失敗する。戦は戦場で行うもの、と伝えもうせ」
「はっ」
既に方針を決めて軍隊を送り出したのだから後方からぐちゃぐちゃ言うな。戦場の事は自分に任せておけ、ということだ。
昭和の陸軍なら独断専行と非難されていただろうが、戊辰戦争から戦場に身を置いてきた黒木には戦機を見逃さない観察眼と後方からの妨害を撥ね除ける胆力が備わっていた。
「第一二師団に渡河命令を」
「はいっ」
黒木の命令を受けた第一二師団は直ちに渡河を開始。
下流で行動していた第二師団に注目していたロシア軍は上流の第一二師団に気がつくこともなく、妨害することはなかった。
第一二師団は損害なく渡河に成功した。
「第一二師団、渡河に成功しました。現在九連城の後方へ進撃中」
「やりましたな」
藤井少将は作戦の成功を喜んだ。
「しかし、不味いですな。渡河地点を確保しなければ」
「不要」
藤井の懸念を黒木は一言で否定した。
「しかし、渡河した部隊は左右に展開し、橋頭堡を確保するべきです」
欧州の兵学では渡河した場合、渡ってきた橋の安全確保――補給路と万が一の退路として守るために周囲に展開するのが常識とされた。
「時間がありもはん。第一二師団には躊躇なく進むよう伝え」
「それでは敵中に孤立する危険があり危険です」
黒木の指示は敵中奥深くへ進み孤立し包囲される危険があり、欧州の兵学では危険視されていた。
「それは欧州の戦いでごわす。ここはアジアの朝鮮半島、鴨緑江。ここにはここの戦い方がありもうす。よその戦い方を、無理にあてはめるのは危険でごわす。第一二師団は進撃するよう命じよ」
黒木は改めていった。
藤井が指示を終えると、黒木は呟くように話し始めた。
「おいどんが見るところ敵は九連城と正面にいる第二師団にしか目が向いておらんようでごわす。上流や後ろに目を向けておりもはん」
「たしかに第二師団の敵情報告にもそのような報告がありました」
「ならば的が見ていない間に後ろに回り込むのがよか。それに第一二師団は九州の荒くれ者、前進は得意じゃが守りは気が短く不向きじゃ」
九州男児の性格からか、第一二師団は攻めは勢いがあるが守備は苦手だった。
一方第二師団は東北のため我慢強い東北人の性格からか一度守りに入ると粘り強かった。
「近衛師団は誇り高い精鋭部隊、第一二師団の成功で無理にでも渡河しもうす。そのときには第一二師団は九連城の後方へ向かっているハズでごわす。自分の尻に火が点いているのをロシア軍が知った時、どう動くかが見物でごわすな」
実際、黒木の言うとおりになった。
防御の堅い第二師団にかかりきりになったロシア軍は、上流から渡河されていることに気がつかなかった。
近衛師団が渡河し始めた直後、ようやく気がついたが、その時には第一二師団が九連城の後方へ回り込もうとしていた。
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