日露開戦時の朝鮮半島と満州の情勢

 日露戦争の原因は朝鮮半島を巡る日露の戦いである。

 シベリア開発と南下政策を数世紀にわたり行ってきたロシアにとって、その延長である満州そしてその先の朝鮮半島へ進出は当然のことだった。

 特に朝鮮半島はロシアにとって一六世紀、イワン雷帝がモスクワ大公国建国以来、長年求めていた不凍港でありなんとしても獲得したかった。

 だが、日本としてはロシアの野望を座視することは出来ない。

 江戸時代より千島列島、樺太でロシアと接触しその領土拡張欲をみて危機感が広がっていた。

 ロシアは領土を広げると地名をロシア風に変え、入植しロシアの一部にしていく。

 シベリア開発――事実上の吸収を見れば明らかである。

 日本が開国した理由も欧米列強のアジア進出により周囲が植民地化されていた危機感のためであり日本の将来のため、独立のため富国強兵、欧米化を行った。

 そのため日本の安全を守る要地として朝鮮半島を勢力圏下におくことが必要だった。

 多数の良好な港湾を持ち大陸と繋がる朝鮮半島は文字通り大陸と海との架け橋だ。

 特に冬期は沿岸から十キロ先まで凍結するウラジオストックしか港を持たないロシアにとっては朝鮮半島確保は悲願だった。

 だが日本の場合、朝鮮半島がロシアに奪われた場合、その力が日本に向けられる事になる。

 常に半島から出てくるロシア艦隊を警戒する必要があり、日本の独立、存続に影響があると考えていた。

 欧米の脅威に対抗するために開国した日本にとってこの事態を座視する事などできない。

 そのために朝鮮を日本が、満州をロシアが支配するという密約を結び互いに干渉しないという約束を取り付け安全を確保しようとした。

 しかし、朝鮮半島を狙うロシアは日本の心配不安など意に介さなかった。

 著しく国力の差がある日本を見下し、半島も全て手に入れることが出来ると考えていた。

 義和団の乱の後、撤退宣言を反故にして二十万の大軍を満州に駐留させたのも、ロシアに逆らえる国はないと考えたからだ。

 このような乱暴な国が隣にあるのでは将来に希望を持てなくなる。

 そこで日本は英国と同盟し、ロシアに対抗しようとした。

 それでもロシアは話し合いの席に着かず、開戦となった。

 日本が開戦と同時に真っ先に朝鮮半島に上陸した理由はそこだった。

 日本の生命線であり安全保障上の要地である半島を失うのは日本の存続にも関わる重大な問題であり、ここを失うことは敗北に等しかった。

 先の日清戦争で清国から独立させ、大韓帝国と名乗らせたのも清――老いたとはいえ強大な力を持っている中国の影響から朝鮮半島を解放し清の圧力から日本の独立を守るためだった。

 中華思想からの離脱、大の字を付け、帝国を名乗らせることで清帝国と同格という宣言をさせた。

 ここは大日本帝国と自らを名付けた日本と同じ事情であり、半島に追随して欲しかった。

 だが大韓帝国は日本がロシアを恐れていることを知ると大韓帝国はロシアにすり寄り日本を追い出そうと考え行動していた。

 小中華思想を持っている大韓帝国は強大な国こそ自分たちが使えるべき国であり力の弱い、ましてそれまで格下だった日本に媚びへつらう気など無かった。

 中立侵犯すれすれの状態で日本がせっかく独立させた大韓帝国へ開戦と同時に兵を送り込んだのも大韓帝国がロシア寄りになったためで、日本的には緊急避難処置であった。

 ドイツ参謀本部に習って事前に戦時計画を策定し、半島各地にも迅速な移動を行うために鉄道を建設してのもそれが理由だ。

 かくして日本は軍隊を半島へ迅速に展開し、一ヶ月で勢力圏に収めることに成功した。

 だが、ロシアの脅威はまだ続いている。

 二十万のロシア軍が半島の付け根である満州におり、何時南下してくるか気が気ではない。

 この大軍を追い払わなければ半島は再び奪われる。

 日本の安全のため朝鮮半島確保し脅威となっているロシア軍を満州から追い払う。

 これが日本が満州へ向けて進軍した理由であり、その第一歩である鴨緑江渡河作戦が実行された理由だった。

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