観戦武官 ダグラス・マッカーサー
ダグラス・マッカーサーはアーサー・マッカーサー・ジュニアの三男として生を受けた。
祖父はスコッタランド出身で貴族の血筋だったが、家はすでに没落しており、米国へ移住する。
父親は一六歳で南北戦争に従軍しており一時は辞めたが再び軍隊に戻った。
そのときに生まれたのがダグラス・マッカーサーであり彼は兵舎で生まれた。
当時はインディアン戦争のまっただ中で父親は米国中の砦を転任しており一家も米国中を引っ越した。
そのためダグラスは砦の中で育った。
ただ、兄である次男マルコムが病死してから母親メアリーはショックから長男と三男であるダグラスをより溺愛するようになった。
さらにフランスの風習にならって母親がダグラスに女の子の格好をさせていたこともあった。
西テキサス士官学校に入学したのも、母親に女装させられた姿を見た父親がダグラスの人格形成に影響があると考え母親から隔離するためだ。
その後はウェストポイントへ入学する予定だったが、入学条件の一つである大統領もしくは連邦議員の推薦が必要だったが得られず母親メアリーのコネで下院議員に手紙を出したところ推薦を得て試験を受けて入学した。
そのため、ダグラスを溺愛し心配する母親がウェストポイント入学中近くのクラニーズ・ホテルに移り住み、ダグラスの学園生活に目を光らせるのを許容しなければならなかった。
母親の溺愛は毒親レベルであり、同世代の女性とのデートにさえ同行する徹底ぶりで、結局マッカーサーが卒業するまで離れなかった。
そのため、ダグラスは「士官学校の歴史で初めて母親と一緒に卒業した」とまで言われる羽目になる。
さらに、父親が有名な将軍である事もあってダグラスは校内で入学直後から有名だった。
結果、早々に上級生に目を付けられ、しごきという名のいじめが行われていた当時のウェストポイントでダグラスは念入りにいじめられることになる
だがダグラス・マッカーサーは、しごきという名の虐めに耐えきり全生徒から尊敬を受ける。
しかし、この直後ダグラス・マッカーサーに人生の転機が訪れた。
米比戦争に従軍していた父親が戦死したのだ。
アギナルド率いるフィリピン独立軍は海援隊の支援を受けており、事実上の戦闘だった。
インディアン戦争でアパッチ作戦に参加してジェロニモ以下の先住民を殲滅した作戦を再現したアーサー・マッカーサー・ジュニアはフィリピン人の怒りと危機感を湧き上がらせ、同時に海援隊がカメラで撮影した写真が世界中にばらまかれたことにより世界から顰蹙を買っていた。
マッキンリー暗殺後、大統領に就任したセオドア・ルーズベルトはアメリカに向けられた非難の火消しに躍起になる。
その一環として在フィリピン軍は段階的に縮小され、その中でアーサーは怒りと殺される危機感から参集したフィリピン人で膨れ上がり世界中の支援で装備を調えたフィリピン革命軍の総反撃を受けて在比米軍部隊はルソン島の大半を失い孤立。
最後に残ったマニラ近郊での決戦で戦死した。
だが、米国政府は反乱事件として米比戦争を扱っており殉職とされたが戦死とはされなかった。
このため、マッカーサー一家は大黒柱を失い収入を失いかけるが母親の実家からの援助で助かった。
だが母親は父親の喪失を受けてより一層息子のダグラスを溺愛するようになる。
父親の後ろ盾を失い、何より尊敬する父親を失ったダグラスの悲しみは深かったが、勉学に集中することにより、ウェストポイントを歴代二位の成績で卒業した。
米国陸軍は大卒者なら務まるであろう歩兵や騎兵より、数学的思考と工学的な技術、そして実務能力を必要とする工兵をエリートとして見ており、ダグラスも工兵を選択した。
父親がいなくなったため独力で陸軍のエリートコースを進むには、工兵が手っ取り早いからだ。
観戦武官を志願したのも昇進を早めるためだった。
外国の軍隊相手でも階級は権威があり、情報収集するにはできる限り階級が高い方が良い。
そのため、在外公館に配属される武官は早めに昇進させられる事が多い。
観戦武官も同じであり、中尉に昇進したばかりだったダグラス・マッカーサーは出国前に大尉へ昇進していた。
母親メアリーが父親の元部下達へ――劣勢に陥る中、本土へ事実上脱出させるために転属させた恩のある彼らへ手紙を出してダグラスを観戦武官にするよう依頼したのだ。
こうしてダグラス・マッカーサーは米国観戦武官の一員である工兵大尉としてソウルにいた。
「この後、何かご希望はありますか?」
ゲストであるダグラス・マッカーサーに鯉之助は尋ねた。
「出来れば、陸戦を観戦したいのですが」
「海援隊の私では陸軍に話を通すのは難しいでしょう」
現在前線に出ている海援隊の部隊は艦隊のみだ。
陸戦に出ている部隊はいない。外人部隊も陸軍へ行っているため話を通すのは難しい。
それに外人部隊は多国籍のためかなりイレギュラー、観戦武官を受け入れる体制にない。
「いえ、山岳師団へ」
「ああ、それならなんとかなるでしょう」
海援隊が作り上げ陸軍部隊となったのが山岳師団だ。
訳あって鯉之助が日光にいたとき、学友とサトウさんと共に日光の山々を登った。
その後ウェストンさんが加わり海援隊の後援で鯉之助は山仲間と共に山岳会を創設。日本中の山々やヨーロッパの山に登っていった。
その実力は本家であるイギリスの山岳会に匹敵するほどだ。
彼らの山岳登攀能力を見て、山岳戦専門の部隊が必要と考えていた鯉之助は北海道で山岳部隊を作る。
彼らは鯉之助の期待に応えて樺太や購入したばかりのアラスカで活躍し武装蜂起した現地人の鎮圧のみならず、測量、開発などの分野にも動員され海援隊の活動を支えた。
のちに日本陸軍に部隊とノウハウを提供し山岳師団が創設される。
そのため山岳師団は半ば海援隊の影響下にある。
「しかし、よろしいのでしょうか?」
「ええ、是非とも見てみたいのです。他の部隊もですが、この後行われる作戦は朝鮮半島北部で行われるしょう。観戦するには戦場にいませんと」
マッカーサーの言葉に鯉之助は感心した。
初期の作戦で制海権を確保し、半島を確保した日本軍が朝鮮半島から満州へなだれ込むと予想している。
勿論、他の観戦武官の情報もあるだろうが、自ら情報を取捨選択して自分の言葉にしている。
無数に入ってくる情報から有用とみられる情報を抜き出し、真実を見つけるという作業は高度な知能がなければ出来ない。
次の戦場を見つけ出しただけ、さすがウェストポイント歴代二位の成績で卒業しただけの事はあった。
「できるだけ尽力しましょう」
鯉之助はダグラスの願いを請け負った。
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