フィリピン共和国

「オランダからの輸入品はフィリピンのマニアらあるいはダバオ、レイテ周辺あたりで積み替えれば大丈夫ですよ」


 鯉之助はマーカスの懸念を払拭するように自分の確保した方法を示した。


「このことは既にフィリピン政府の承認済みです」


 鯉之助の世界のフィリピンはアメリカの植民地ではなくフィリピン共和国として独立し日本の友好国として存在している。

 独立前から海援隊が協力したため日本に対して友好的なのだ。

 フィリピンはスペインの植民地として過酷な圧政を受けていた。この状況を売れいた龍馬は幕末から掲げた「アジア独立」という大義のため、フィリピンの独立派に援助を行っていた。

 上手くいっていたが九八年の米西戦争でスペインが負けたため、アメリカの植民地になっていた。

 その際、スペイン軍と戦うためにフィリピンの独立勢力とアメリカは手を結んだ。

 だだ戦後その約束をアメリカは反故にして、スペインからフィリピンから購入すると今度はアメリカの植民地にしてしまった。

 当然独立派をはじめフィリピンの民衆は反発した。だが、アメリカは植民地支配を強化するために独立派の弾圧に走り数多くのフィリピン人が殺害された。

 そのためフィリピンの民衆は激怒し、フィリピン各地で反乱が発生。

 アメリカは直ちに現地の在フィリピン・アメリカ軍司令官アーサー・マッカーサーJr将軍――ダグラス・マッカーサー元帥の父親の元へ三万の大軍を派遣し鎮圧しようとした。

 派遣軍の指揮官の殆どがインディアン戦争を戦った経験者、虐殺行為を一度ならず行った人物ばかりであったため戦闘は虐殺に近く数万のフィリピン人が亡くなった。

 勿論フィリピン人は反発したが圧倒的な近代兵器の前に反抗の芽は潰されていった。

 通常なら独立勢力があっという間に鎮圧されるが救いの手が差し伸べられた。

 日本と海援隊の支援である。

 幕末より外国からの侵略を恐れていた日本と海援隊は、アジアに食指を伸ばすアメリカを警戒していた。

 そして米比戦争をみてアメリカが来るのを防がなければならないと決意しアジア独立のためにもフィリピンを支援することにした。

 布引丸を第一陣として日清戦争で降伏した清軍より得たドイツ製小銃を供給されたフィリピン独立軍は各地で巻き返した。

 密かに派遣された日本軍および海援隊の軍事顧問の指導、海援隊というより鯉之助が考案した新兵器の実戦テストを兼ねた投入もあり、独立軍は徐々に盛り返して行き、米軍を圧倒。

 軍艦を強奪し太平洋上を暴れ回り、グアムやウェーク島、果ては太平洋を横断し中米の米軍基地を襲撃する成果さえ上げた。

 米軍は劣勢となり、ルソン島の大半を制圧。

 アメリカ軍をマニラに追い詰め、行われたマニラ決戦においてアーサー・マッカーサー将軍を戦死させ、マニラを奪還。

 マッキンレー暗殺も重なり、戦費負担が重くなったアメリカはフィリピン支配を諦め、一九〇一年日本の仲介により講和条約を結びフィリピン独立を認めさせた。

 以降フィリピンは日本の友好国として手を貸してくれている。

 それは日露戦争が始まっても変わらない。

 むしろ独立戦争で受けた恩を返すため参戦しようとしている。

 だが、参戦されるとフィリピンに近いインドシナ半島に植民地を持つフランスが、独立運動の激化を懸念して参戦しかねない。

 そうなれば日英同盟に従って英国も参戦し世界大戦になりかねないのでフィリピンの参戦を抑えることになってしまった。

 それでも好意的中立を維持してくれるのは嬉しいことだ。

 少額だが国債を購入してくれるし、フィリピンで産出する鉱物を輸出してくれている。

 中立国からの物品を購入するときの経由地――輸入元を隠すためのダミーと鳴ってくれるだけでも十分だった。

 蘭印から石油を輸入する時の瀬取り用泊地を提供してくれるだけでも嬉しい。

 数多あるフィリピンの群島の一部で石油を移し替えて日本へ運び込むことくらい黙認してくれる。

 それに石油は石炭に比べて移し替えが容易だ。固体である石炭を積み出すのに特別な機材が必要だが、液体である石油はくみ出しポンプさえあれば簡単に移し替えることができる。


「それならよろしいでしょう。今後ともご贔屓に」

「ええ、よろしくお願いします」


 笑顔で答えた鯉之助だが、内心では歓喜を爆発させていた。

 いくら世界最強の皇海、白根といえど燃料の石油が無ければ航行できない。

 蘭印からの石油が入ってきて燃料補給のめどが立ったことは喜ばしいことだった。

 少なくともこれで行動不能になることを避けられたことに安堵していた。


「ああ、それと」

「なにか?」

「日本が勝てるのかという疑問が解決していません。ロシアは陸軍国です。ロシアに大陸で勝てるのでしょうか?」

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