鴨緑江河口海戦
ロシア海軍の襲撃部隊は、日本海軍に見つからないよう海岸沿いをゆっくりと進んだ。
全速を出したいが、全速を出すと白波が立ち、闇夜でも遠くから発見されてしまう。
白波が立たないように、見つからないように、速力を抑えてロシア軍の襲撃部隊は進んだ。
彼らは夜明けと共に、全速力で鴨緑江の河口に向かう予定だ。
夜間の間に出来るだけ距離を稼ぎ、円島にいる日本艦隊が追いつけない距離まで行き、後は全速力で突入し船団を襲撃する。
勿論、護衛はいるだろうが、万難を排して攻撃する。
一隻の輸送船を撃沈すれば、それだけ上陸してくる敵兵力が減る。
魚雷の一本でも商船に打ち込めば撃沈あるいは大破だ。
刺し違える覚悟でロシアの襲撃部隊は向かった。
夜明けと共に、速力を上げて河口へ向かう。
敵の船団を発見し、撃破しようとした。
だが、河口近くに責任しても船団は発見できなかった。
代わりにいたのは鯉之助率いる第一義勇艦隊だった。
「敵艦隊発見!」
「意外と早かったな明日以降かと思ったんだけど」
露天艦橋で報告を受けた鯉之助は言う。
準備や情報確認の作業でもう少し遅れると思ったが意外とロシア軍は思い切りが良かった。
「しかし船団の速力を落としたり避泊させるとは」
「襲撃されるよりマシだよ」
鯉之助がやったのは船団を洋上で停止させ進撃を遅らせたのだ。
予定コースでも時間を遅らせれば敵と遭遇することは無い。
ロシア軍が早く来すぎるようにはめたのだ。
元々悪天候などのトラブルで洋上で半月ぐらい待機することを船団は想定しており数日の遅延くらいは織り込み済みである。
その後の予定には支障は出なかった。
「さあ、撃滅しようか。取り舵、針路南。攻撃開始」
「宜候! 砲撃開始!」
皇海は半島を背に外洋に向かう針路を取ったあとロシア巡洋艦に向かって砲撃を開始した。
皇海単艦で十分相手に出来る。敵艦の射程外を保ちアウトレンジで一方的に砲撃する。
最新のタービン機関を搭載しているため、レシプロ機関搭載の巡洋艦より遙かに速力が優れている。
「敵駆逐艦接近!」
巡洋艦を逃がそうと駆逐艦が破れかぶれで突入してきた。
しかし、そこへ襲い掛かったのは、待っていましたとばかりに迎撃に向かう明日香率いる式波以下の第一二駆逐隊だった。
大型の船体を生かし一二サンチ砲弾を雨あられと降らす。
七.六サンチ砲しかないロシア駆逐艦に対抗することは出来ず砲火に負けて撃破、あるいは撤退していく。
しかし、一部が砲撃で出来た水柱に紛れてすり抜けて皇海に迫った。
「行かせない」
だが、皇海の直衛に付いていた麗率いる綾波以下の第一一駆逐隊が割り込みもう砲撃を加えた。
「無茶しやがる」
綾波の行動を見て鯉之助は顔を引きつらせた。
先日の先頭で艦首を失っている。
幸い泊地に戻り平賀技師の手で仮艦首を付けて大神造船所へ回航される予定だった。
だが、作戦が行われると聞いて麗が綾波での参加を上申。
鯉之助は回航させるように言ったが、聞き入れず仮艦首のまま強引に付いてきた。
回航のために作った仮の艦首なのに戦闘行動など無謀だった。
だが狂乱状態のロシア駆逐艦は刺し違えようと一番大きな皇海に向かって突撃してくる。
綾波の間をすり抜けて一隻が近寄ってきた。
「右舷副砲群撃ち方始め」
準備していた一五サンチ砲が一斉に火を噴き駆逐艦に雨あられと砲弾を降らす。
主砲で小さな標的は狙いにくいので、何発も打ち込める副砲の連射で仕留める。
二隻撃破したが、一隻が皇海を雷撃すべく横腹を向けた。
だが、背後からやってきた綾波が雷撃態勢にあったロシア駆逐艦に体当たりした。
突如真横から体当たりを受けたロシア駆逐艦は、四倍以上の排水量と強度を持つ綾波の前に缶が大きく傾き船体を切断。
艦首と艦尾をそれぞれ天に向けて沈没した。
「無茶をする」
「でも、我々が危険でした」
鯉之助の感想に沙織が言う
射線上に皇海がいたため、皇海を避けて撃とうとしても移動に時間がかかる横転させ無力化する方法以外なかった。
「平賀君泣くかな」
損傷して仮艦首を取り付けようと徹夜したのにそのまま出撃してしかも艦首からの体当たり攻撃。
旧式の艦は、ラミング――体当たり攻撃のため艦首にラムと呼ばれる衝角を取り付けていたが、衝突事故の時に味方を沈めやすいという欠点があったので廃止された。
ろくに装備も無いのに体当たりなど、船体への負担が大きすぎる。
「いや、思いっきり怒るかな」
実際、円島の泊地に戻った時、麗と平賀の間で激しい喧嘩となった。
二十代後半の男に文句を言われた三十代後半の女性が激しく反論いや喧嘩するという大人気ない光景が繰り広げられた。
さすがに士気に関わるので鯉之助が止めに入らざるを得なかった。
だが、作戦は成功した。
出撃してきた巡洋艦と駆逐艦とはいえロシア軍の艦艇を撃破した。
更に出撃すれば日本艦隊が待ち受けている上に、船団の位置情報に自信が持てなくなったロシア軍は船団攻撃を中止、旅順近海のみ行動するようになった。
そのためこれ以降、日本船団に対する旅順艦隊の襲撃は無くなり、日本軍の兵力展開は順調に進む。
しかし、旅順艦隊が旅順にこもり続けたため、連合艦隊と鯉之助率いる第一義勇艦隊は旅順に張り付き続ける事になる。
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