船団防衛
「対馬の船団は我が第二義勇艦隊が守り切ったぞ」
対馬での船団襲撃の翌日、皇海を訪れた秋山に鯉之助は言った。
「これで兵力集中が進むな」
秋山は居心地悪く聞いていた。
海軍の担当官が、ロシア側の計略にはまり、第二艦隊を北海道沖に急行させてしまった。
もし、第二義勇艦隊がいなければ、対馬の船団は大損害を受けていたことは間違いない。
特に、列車をそのまま船に乗せる事で輸送効率を向上させる鉄道連絡船を喪失していたら確実に日本陸軍の兵力展開に影響が出ていた。
それだけに海軍側は海援隊に貸しを作ったような状況であり、言いづらかった。
「だが旅順艦隊の封鎖は難しい。このままではこの後の作戦に支障が出る。この後の鴨緑江渡河作戦と遼東半島上陸作戦にだ」
それでも秋山は切り出した。
元々貸しなどを気にするような人間ではなかった。
だが重大な案件であるのも事実だ。
「それは理解している。何しろ現状日本陸軍の総力を挙げた作戦だ」
平時の日本軍の常備兵力は一五個師団三〇万とされている。
史実でも一三個師団に二〇万とされているので鯉之助の史実改変によって兵力を増やすことに成功していた。
そして、第一軍一〇万が鴨緑江を渡河、第二軍一〇万が遼東半島上陸作戦を三月下旬に実行する事になっていた。
史実であれば五月上旬であるのでかなり早まっている。
迅速な海上輸送と鉄道による半島制圧及び兵力集中のおかげである。
「もし、旅順艦隊が出撃し、水雷艇一隻でも襲撃すれば船団は危険だ」
だが、旅順を封じきる前に作戦が始まる事になった。
史実でも旅順を封鎖しきれなかったが、ここでも不十分な状況が続いていた。
「確実に出撃するだろうな」
「何を他人事のようにのんきに言うんだ」
「だが事実だろう。一〇万もの大軍を載せた大船団だ。漏れない方がおかしい」
数万の大軍を輸送するには膨大な船舶が必要とされる。
史実における1937年の支那事変では杭州湾への上陸作戦で三個師団を上陸させた。そのために当時の日本保有船舶の二割一〇〇万トン以上が徴用され投入されている。
三十年の違いがあり、その間の技術革新や武装の多様化、重量化――日露戦争から変わっていない帝国陸軍と言われるが、自動車を装備したり、大砲を大型化したりするなど近代化は進んでいた。弱小とされるのは太平洋戦争で戦った相手が日本以上に技術革新を進め生産しまくったアメリカだったためだ。
日中戦争に比べればまだ装備は少ないが、大軍を渡海するには大量の船舶が必要なのだ。
「中止するわけにはいかないだろう」
「当たり前だ。朝鮮の維持に満州の確保が必要なんだ」
朝鮮半島が日本の防衛上必要であり、朝鮮半島を守るために付け根にある満州が必要だった。
朝鮮半島のみ守れば良い、という意見があるしそれは一面では正しい。ただし、朝鮮半島を確実に守りきれると言う条件が付く。
もし、一回の戦いで、朝鮮半島が敵の手に渡れば日本の安全保障は崩れる。
しかし、満州も手に入れて縦深――後退し時間を稼げる領域を作る事で、対応しやすくする。朝鮮半島を守るための時間を稼ぐことがあ出来る。最悪、満州を捨てて朝鮮半島を守るという選択だって出来る。
日本の今後の選択肢を増やすためにも満州は必要だった。
勿論、満州の資源も魅力的だったが、ロシアという脅威の前に、日本としてはあくまでも安全保障の観点から満州を確保したかった。
特に鉄道防衛を建前にして大軍を駐留させているロシア軍をたたき出す必要があったのだ。
そのためにも軍が満州に乗り込むことが必要であり、第二軍が上陸する必要があった。
「第二軍を安全に上陸させるためにも旅順艦隊を封鎖する必要がある。そのためにも閉塞
作戦が必要だ」
秋山は必死に訴えるが、鯉之助は疑問符を浮かべて尋ねた。
「必要なのか? むしろ旅順艦隊を出撃させた方が良いんじゃないのか?」
「どういう意味じゃ?」
秋山は旅順艦隊を出撃させるという鯉之助の話を眉を吊り上げて尋ねる。
「俺たちが旅順を封鎖している、いや攻撃しているのは旅順艦隊を撃滅するためだ」
「その通りじゃ」
「逆に言えば、撃滅できれば、要塞で守られている艦隊が出てきたところを俺たちが攻撃すれば良いだろう」
「……確かに!」
そもそも旅順艦隊が日本の制海権、船団を脅かしていたのだ。
この旅順艦隊を撃滅したいが旅順要塞に立て籠もり穴熊を決め込んでいて、撃滅できない。そのため監視、封鎖して行動を封じるため連合艦隊も海援隊も旅順沖に張り付いている。
劣勢と予想される旅順艦隊が出撃すれば撃滅できる。
「だが問題なのは、旅順艦隊が出撃してこないことだ。しかし、旅順艦隊が洋上に出てきてくれるというのなら。撃滅できる。満州を守るためにもやってくる日本陸軍の船団襲撃に艦隊が出てくるのではないか?」
「確かにそうだが、船団を守らなければならないのだぞ。危険にさらして良いのか」
「方法はある」
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