ゲオルギーの前世
ゲオルギーが転生する前の記憶はロシア連邦で生まれたロシア人男性ウラジミール・イワノフスキーだった。
ソ連崩壊後に生まれ、経済が混乱し生活が困窮する中、フルシチョフカ――ソ連時代に作られた団地の一室で成長した。
物資が困窮する中、両親が与えてくれたのが、パソコンとインターネットだった。
それなりに頭の良かったウラジミールは、すぐに操作方法を覚え、世界の情報を得るようになった。
その中で興味を覚えたのが日本のアニメだった。
ロシアには無い多種多様な題材の豊富なアニメ作品の大群は思春期のウラジミールの心を鷲づかみにした。
そして日本に興味を持ち様々な分野を調べるとかつて日本とロシアが帝国時代に戦った事を知った。
ソ連時代より日露戦争に関しては研究がなされており、資料には事欠かなかった。
成人してから徴兵され軍隊に行き、軍事知識と軍隊の現実を見て除隊した。
経済不振のロシアで日銭を稼ぎながら生活していたが、冬のある日、飲酒運転の車に轢かれて死亡し、気が付いたらツェザレーヴィチ、ゲオルギーとして目覚めた。
療養所の周辺で散歩中、結核の発作で死にかけたが通りかかった農夫に助けられ、一命を取り留めた。
1900年代にとって結核は不治の病であり、療養所での生活が続くことになるがウラジミールの記憶を持ったゲオルギーは、療養の時間を利用して1900年までの歴史を学んだ。
すると明治維新後の日本を中心に歴史が大きく変わっていた。
坂本龍馬が作り出した海援隊が樺太をロシアからもぎ取ったのを皮切りに台湾、ハワイ、アラスカ、フィリピンと日本の勢力圏を広げていた。
日清戦争は史実以上の勝ち方をして多額の賠償金を手に入れていた。
そして、史実通りロシアを中心とする三国干渉により、露日関係は緊張状態となっている。
露日の開戦は不可避とゲオルギーは確信し、敗戦を回避する為に動き出した。
目標が出来たからか、結核の症状は徐々に収まり、サンクトペテロブルクへ戻る事が出来、それ以来精力的にツェザレーヴィチとしての役目を果たすと共に、露日戦争での勝利を目指した。
露日戦争は、末期にあったロマノフ王朝とロシア帝国の破滅の序章であり、二〇世紀のロシアの混乱の原点となった。
これに勝利、あるいは回避することが出来れば、ロシアの国力を、特に1917年の革命による混乱と国力衰退を回避し、アメリカと並ぶ超大国に出来るのではと考えていた。
そのために、軍備の増強、海軍力の増強と陸軍の増強を行った。
だが、直面したのはロシアの後進性だった。
国力は国土と人口が多いため大きかったが国民の大半は農奴と変わりなく、近代化に必要な知識階級、頭脳労働者が少ない状態だった。
そのため、増強しようとした海軍の軍艦建造は現状の計画でさえ遅れていた。
新たに日本と英国が共同建造したドレッドノート級とその改良型皇海に対抗するために建造している戦艦はようやく進水できる状態でしか無い。
そのまえの日本海軍の三笠などの一二インチ砲戦艦に対抗するべく建造されたボロディノ級は起工して五年たった今ようやく一番艦が進水し艤装中だ。
日本は既に敷島級四隻が就役して戦闘に加わっているのに、ボロディノ級は一隻も戦列に加わっていない。
これでもフランス、ドイツ、イタリアから技師を呼び寄せ、部品を輸入して各艦の建造を早めていたがロシアの貴族勢力がせっかく国産化を始めたのにまた外国から購入するのかと文句を言ってきたため、進みは遅かった。
貴族階級に反発されることが多かった。
軍備を増強するためには国力の増大が不可欠だった。
ウィッテのおかげで彼の在任中にロシアの国力は倍以上に伸びていたが、国土が大きく人口も多い分全ての国民が豊かになるには、国民一人当たりのGDPがヨーロッパで最底辺に近いロシアを豊かにするにはさらに豊かになる必要があった。
そのために旧来の農村共同体――農奴解放令が出たにも関わらず骨抜きにされゾンビのように生き残っている農奴制度を解体し、自由市場を作り人々の需要に合わせて供給がもたらされるようにするべきだった。
ウィッテと共に実現に奔走したゲオルギーだったが、既得権益を持つ貴族と地主階級の反発に遭い頓挫。ウィッテは失脚するに至った。
庇いきれず罷免を回避できなかった後ろめたさはあるが、現在のロシアを救えるのはウィッテしかいなかった。
彼のアドバイスがなければ、ロシアという巨大なスチームローラーは稼働できないだろう。
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