第二回閉塞作戦の問題点と代替案
「どうか、第二回閉塞作戦への参加を願えないだろうか?」
「拒否するよ」
海援隊は海軍の所属でも明治政府の所属でもない独立した組織だ。
協力はしても命令を受ける立場では無い。
鯉之助率いる義勇艦隊も連合艦隊に派遣されているが、指揮下に入ってはおらず協力関係であり、東郷司令長官の要請の形で行われ、それを鯉之助が命令と心得る形式だ。
そのため、明確に拒否したら秋山も無理強いは出来ない。
「なんとかしてくれないか?」
「成功の見込みの無い作戦に協力することなど出来ない」
あれほど用意周到に準備した閉塞作戦が失敗した。
しかも、第一回は奇襲だったからこそ、損害は少なくて済んだ。
第二回は敵が警戒しているだろうから上手くいくとは思えなかった。
「だが、旅順港は未だに閉塞出来ずにいる。敵が攻撃を仕掛けてくるだろう。出撃されては先日のように大陸への輸送船団を攻撃されかねず、陸軍の海上輸送、この戦争の目的である半島の確保も難しい」
「それは理解している」
日本の安全保障のため、朝鮮半島の確保を目的に始めた日露戦争であり、ロシアが朝鮮半島を拠点にして日本への攻撃を防ぐのが目的だ。
その朝鮮を守るための部隊を送り込むには島国の日本は海上輸送に頼るしか無い。
陸軍兵力輸送を妨害されては目的を果たせない。
旅順艦隊へ海戦と同時に先制奇襲攻撃を仕掛けたのもそのためだ。
だが、大戦果を上げたが旅順艦隊は残っている。
事態をややこしくしているのは輸送船の襲撃は巡洋艦や駆逐艦など比較的小型の軍艦でも可能だ。
防御力も機動性も低い商船など魚雷一発で簡単に沈められてしまう。
そうなると航路を進む船に護衛の艦艇を送る必要がある。現在第三艦隊と海援隊の第二義勇艦隊がその役目をになっているが、貼り付けるだけで経費が掛かる。
長期戦でこれは痛い。
そして出撃を阻むため旅順に連合艦隊を張り付いておく必要があり、いずれ来るであろうバルチック艦隊の迎撃が出来ないし、最悪の場合、旅順艦隊と挟撃される可能性さえある。
旅順艦隊を完全に確実に封じ込めるため、連合艦隊は閉塞作戦を行おうとしていた。
「それとも広瀬に責任を感じているのか?」
「それは秋山の方だろう」
鯉之助の指摘に秋山は黙り込んだ。
何時もの松山訛りは無く、丁寧な言葉遣いで心の動揺を隠そうとしているのが見え見えだった。
「……なんとか助けてくれんかのう。このままでは旅順艦隊が出撃し放題じゃ」
「分かっているが、閉塞作戦の閉塞船はどうやって集める? 軸流丸クラスなどもう無いぞ」
最新最大最速の商船は通常の任務、大陸への輸送で必要なので出せるわけながなかった。
「廃棄寸前の老朽船を掻き集めて」
「老朽船でも船舶が足りない今では貴重だ。だがそんな骨董品役に立つか? 目的地、旅順の港口の近くは敵の砲台の目の前だ。到着する前に撃沈されるぞ。それ以前に故障なしにたどり着けるのか」
「だが、他に確実に塞ぐ方法は無い。旅順港の艦隊を確実に止めるには閉塞作戦以外にない」
「いや、あるよ」
「機雷ではダメだぞ」
秋山は先手を打って止めようとした。
新兵器である機雷は鯉之助が導入を強く推進している新兵器だった。
安価で敷設が楽で駆逐艦などの小型艦艇にも乗せる事が出来る。
そして一度敷設すれば半永久的に稼働する。
それでいて炸薬量が多く、戦艦でさえ一撃で大損害を与える事が出来る。
「連中も馬鹿ではない。駆逐艦や巡洋艦が通ったところを記録し、掃海している。航行の制限は出来ているが敵艦隊は出撃可能だ」
だが機雷には弱点があり、敷設している場所が分かると簡単に回避、あるいは除去する事が可能なのだ。
旅順沖で、日露の艦艇が多数の機雷を敷設していたが、互いにその位置を把握しており、連日相手の敷設した機雷を見つけて処分することが日常になっていた。
特に先日から行われている麗と明日香率いる第一一駆逐隊と第一二駆逐隊の敷設作業は熾烈、苛烈といって良かった。
陸上砲台の砲撃をものともせず、右に左に舵を切りながら突進し港口近くに機雷を落として敷設し離脱する。
掃海作業に出てきたロシア艦艇を見つければ、接近し容赦なく砲撃を浴びせている。
その激しい攻撃に海軍からも鬼神と呼ばれるほど恐れられていた。
しかも、そのやり方を見て当てられた海軍の駆逐艦及び水雷艇も真似して、激しく攻撃する始末であり、徐々に損害が増えている。
損害が増え、修理の件数が増えており、秋山の悩みの種だった。
「いや、機雷だけじゃない。もっと凄い物を用意している。それも内港にいる戦艦を確実に打撃を与え、あわよくば静めることの出来る兵器だ」
鯉之助の言葉に秋山は目を見開いた。
「本当か」
「ああ、お前も連合艦隊もお前のサンチャゴの報告書に囚われすぎている」
米西戦争の時、キューバのサンチャゴで閉塞作戦を実施されたのを秋山も鯉之助も見ている。
鯉之助は史実を知っているからそれほど影響は無かったが初めて見た秋山は驚き報告書に詳細に記載した。
それは海軍内で読まれ影響を受け、日露戦、旅順封鎖を目指した研究会まで開かれ準備が進められていたほどだ。
だから史実では開戦早々に閉塞作戦が実施されたが失敗を繰り返し三回も行われた。
しかし、鯉之助は史実を知っている初回のみ成功の見込みありと判断し、二回目を拒絶した。
勿論、代替策を用意している。
初めから代替策を使わなかったのは、閉塞作戦のほうが物理的に水路を塞ぐことが出来るため、確実に旅順艦隊を封じることが出来る利点を認めざるを得なかったからだ。
通商路の重要性は鯉之助も理解しており旅順艦隊が出撃不能になるのであればやりたい。
だから様々な装備を持たせたが失敗した。ならば代替策を実行するしか無い。
「まもなく、そのための艦が到着する。到着次第実行する」
「やってくれるか」
「ああ」
鯉之助は請け負ったが、一抹の不安があった。
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