鉄道警備部隊
「半島北部に配置した外人部隊がロシア軍の攻撃を受けたのか」
予想外の報告に鯉之助は驚いた。
「はい金村中佐率いる外人連隊が攻撃を受け、特に第一大隊は三分の一が死傷しました」
「そんなに酷いのか。いや、本当にロシア軍は南下してきたのか?」
「はい、コサックと連隊規模の歩兵部隊による攻撃です」
「そうか」
鯉之助は渋い顔をした。
史実であれば日本の奇襲により開戦初頭のロシア軍は混乱しており軍事行動は低調なはずだ。
せいぜい騎兵や歩兵一個中隊で行動するのがやっとで、残りは鴨緑江以北で戦闘態勢を整えることで手一杯のはず。
なのに攻撃に出てきたのは予め日本軍の奇襲を予期して準備し開戦と共に行動に移して来たに違いなかった。
「開戦を予期していた人物がいたということか」
「何処にでも優秀な人材はいるものよ。全てが上手く行くわけではないわ」
沙織はたしなめるように鯉之助に言うが、鯉之助の焦りは次元が違った。
日本の開戦を予期していたとしたら、相手は史実を知っている可能性が高い。
ロシア側にも自分と同じ史実を知る転生者がいると考えた。それも陸軍と海軍双方に影響力を持つロシア政府の重要人物の中にいる。
「その部隊が、何処の命令で行動したのか確かめるんだ。捕虜の尋問を急いでくれ」
「分かったわ」
「それで、半島は何処まで確保できた?」
「鴨緑江までは進軍できたわ。ただ、これは鉄道を確保できたからであり新義州から奉天までは未成線なので通行不能。その先は徒歩になるけど、鴨緑江の北方はロシア軍が防御陣地を敷いてるため、渡河不能。進軍できずにいます。なので朝鮮半島の確保と補給線の構築を優先しています」
「それは仕方ないな」
日本への玄関港である釜山から鴨緑江に面する新義州までの建設は進んでいたがその先の満洲側はロシアの勢力圏で、妨害もあり建設は進んでおらず、工事途中だ。
彼等を守るための守備隊も配備しているが、少数のみ。大部隊だとロシア側を必要以上に刺激するし、包囲殲滅される恐れがあるため、配備できなかった。
朝鮮鉄道会社から警備の依頼を受けた海援隊が警備隊として外人部隊を主要駅に配置しておき、開戦と同時に鉄道施設を確保防衛する計画が立案され実行された。
海援隊が半分民間会社であり、保有する外人部隊も正規軍ではないという裏技を使い、外国である朝鮮王国に開戦前から配備する事が出来た。
鉄道を守るために警備隊を置くのは諸外国で許されていたし、朝鮮半島で頻発する反乱騒動に対処する名目で配備することが出来た。
だが、この条項を盾にロシア側も東清鉄道に堂々とロシア軍を警備目的で駐留させてきやがったが。
だがいくら何でも二十万はやり過ぎだが、国力の差がありすぎて抗議も出来なかった。
それに朝鮮鉄道への駐留部隊には大砲などの重装備も持たせたかったが、警備と反乱対処のためさすがに持ち込むと諸外国、特にロシアの反発を受けるため配備できなかった。
これが彼らの苦戦の原因だった。
ロシア側の鉄道警備の部隊が朝鮮鉄道への襲撃を行ったに違いなかった。
それでも金村中佐をはじめとする部隊は開戦と同時に帝国陸軍外人部隊へ合流・
各所で防御戦闘を展開し苦戦しながらも見事任務を果たした。
彼らのおかげでロシア軍の半島侵入を防ぎ、朝鮮半島を日本が確保し勢力下に置くことに成功した。
現在は、満州への進軍に備え、半島の安全確保と鉄道を使っての物資輸送に全力を尽くしており、計画通り一月から二月ほどで物資集積が終わるはず。
史実より一月から二月程早く行動できる。
「出来れば鴨緑江の鉄道橋開通後に開戦して奉天まで部隊を派遣したかったのですが」
朝鮮鉄道は鴨緑江を渡って北京へ延伸する予定だ。
その途中の奉天でロシアの東清鉄道支線と交差する。
もし鉄道が通じていれば、朝鮮から列車を突撃させ一挙に奉天を制圧することも可能だったし、そのような計画も極秘裏に立てていた。
開通予定の一年後に開戦、あるいは建設を一年早めれば更に戦局を優に出来たかもしれなかった。
「それは仕方ない。シベリア鉄道の開通前にロシアを攻撃したかったしウラジオストックが結氷している間に旅順の主力を叩く必要があった。完成前に、今の時期に開戦する必要があった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます