旅順沖砲撃戦

「敵艦隊発見!」


 水平線に日が出る頃、皇海は旅順沖に到着した。

 明るくなった旅順の方角を見てみると内港にいた敵艦隊が外港に出てきた。

 旅順は突き出た二つの半島によって内港と外港に分かれている。

 先日攻撃した外港は外に開けているため、攻撃しやすいが、内港は二つの半島の為に見えにくく攻撃しにくい。

 だが、出入り口となる水路は狭く、航行可能な水路の幅が百メートルもないため、出港するのに時間がかかる。

 外に出てきたのは巡洋艦と駆逐艦のみ、戦艦はいないようだった。


「戦艦が出てくる前に片付ける」


 戦力が劣勢なら勝ちに行く。

 それが戦争だ。

 試合に負けても再挑戦できるが、戦争は再挑戦できない。

 そして、逃した敵は再び攻撃しに来る。

 倒せる時に倒しておく、味方の被害は少なくする。

 それが戦争だった。


「第一二駆逐隊から突撃を求める信号が来ています」


 着替えて艦橋に上がった沙織が報告した。


「却下だ。皇海の砲撃で片付ける」


 ロシアの駆逐艦に綾波型が負けるとは思わないが、巡洋艦は大型の大砲を搭載しているため、一撃で大損害を受ける可能性が高い。

 隻数が少ない綾波型は大切に使いたい。

 戦力の逐次投入などと言われるだろうが、アウトレンジ攻撃を仕掛けられる皇海が居るのだから、駆逐艦が敵艦に接近して攻撃する必要など無い。


「取り舵、右砲戦、ロシア艦隊を砲撃せよ第一二駆逐隊は続行。第一一駆逐隊に合流するよう命令」


 ロシアの駆逐艦と巡洋艦が第一一駆逐隊に攻撃を仕掛けようとしていたが重武装の綾波型を相手に手間取っているようだ。

 しかも速力が速い。

 蒸気タービンを搭載しているため三〇ノット以上出せる綾波型に対し、レシプロ機関のロシアの駆逐艦や水雷艇は三〇ノットも出ない。

 第一一駆逐隊はロシア駆逐艦を振り切って、むしろ追撃してくるロシア艦隊に後部の主砲を雨あられと浴びせて返り討ちにする有様だった。

 そのためロシア艦隊の追撃は鈍り、距離が開いた。


「砲撃開始」


 鯉之助は砲撃を命じた。

 多数の砲弾が追撃の先頭に立っていたロシア艦の周りに落ちていく。

 さすがに初弾命中は無かったが、林立する水柱に阻まれてロシア艦は反転していく。


「目標を巡洋艦に変更せよ」


 駆逐艦の魚雷攻撃が無くなったので、皇海の攻撃目標を最大の脅威である巡洋艦に変更する。


「撃てっ」


 八門の一二インチ砲が一斉に火を噴き、砲弾の雨を降らせていく。

 さすがに命中弾は無い。

 だが、弾着データから射撃データを修正し、狙いを正しいモノに変えていく。

 やがて巡洋艦を囲むように水柱が上がるようになり、第四射で命中弾が出た。

 偶然にも巡洋艦の中央部に命中した二発の砲弾は薄い巡洋艦の装甲を突き破り、内部で同時に信管を作動させた。

 爆発の威力は突入孔から洩れたが大半は船体の破壊に使われ、二つの砲弾の衝撃波の相乗効果により船体が膨れ上がり前後左右の構造体を全て破壊した。

 船体は両断され前後がそれぞれ浮かんでいたが、やがて双方共に破孔を海に沈め艦首と艦尾を天に向けると沈んでいった。


「敵巡洋艦撃沈!」


 艦橋で歓声が上がった。


「敵駆逐艦なおも接近中」

「戦意が衰えていないか」


 援護にあたる巡洋艦がいなくなったのになおも突撃してくるとは見上げたものだ。


「第一二駆逐隊に迎撃命令! 敵の右側から攻撃するように命じろ!」

「了解!」


 直ちに信号が送られると、第一二駆逐隊は面舵を取り、敵駆逐艦へ主砲を向けられるように針路を取り、全砲門を指向する。

 四隻一六門の一二サンチ砲が敵駆逐艦に向かって矢継ぎ早に砲撃が放たれていく。

 砲弾の横殴りの嵐に標的にされたロシア駆逐艦は晒され、一瞬にして廃墟となる。

 圧倒的な海援隊の砲撃に戦意を喪失した残りのロシア艦隊は撤退を開始した。


「敵艦隊反転します」

「当然だな」


 港外へロシア艦隊主力を出撃させるため、出してきたのだろうが、あまりにも早く日本軍主力が駆けつけたため、各個撃破された形になって仕舞った。


「第一二駆逐隊、敵艦隊を追撃します」

「このまま敵を撃退しても問題ないかと」

「そうだな」


 鯉之助は暫し考えたが、すぐに叫んだ。


「いや、直ちに撤退命令を出すんだ!」


 すぐに命令は実行されたが、追撃に夢中な第一二駆逐隊は中々反転しない。

 そうしている間に旅順方向から砲声が聞こえた。暫し時間が経つと第一二駆逐隊の周辺に巨大な水柱が上がった。

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