旅順内港からの砲撃

「大口径砲の砲弾です!」


 ロシア駆逐艦を追った第一二駆逐隊が巨大な水柱に囲まれるのを見て、見張りが悲鳴のような声を上げた。


「戦艦クラスの砲撃です一体どこから」

「旅順の内港だろう。陸上の観測所からデータを受け取り港内の戦艦がタイミングを合わせて砲撃したんだ」


 沙織が少しうわずった声を上げるが、鯉之助は冷静だった。

旅順沖合からは二つの半島で隠れて見えない内港に停泊している戦艦から半島越しに砲撃するしているのだ。

 史実でも行われており、鯉之助にとっては想定内の事だ。

 それでも、一二インチ砲クラスであり駆逐艦など命中すれば、消し飛んでしまう。

 水柱で一瞬視界から消えた第一二駆逐隊が無事かどうか気が気ではなかった。

 だが、水煙が晴れて、再び姿を現した第一二駆逐隊は全艦揃っており、被弾も無かった。

 しかし、砲撃による水柱のため、第一二駆逐隊の隊列が乱れた。

 そこへロシア駆逐艦が反転し仕返しとばかりに第一二駆逐隊へ襲いかかる。

 いくら大型駆逐艦でも何隻もの駆逐艦や水雷艇に囲まれたらピンチだ。

 まして隊列が乱れ、射界が制限される状況、味方への誤射もあり得る状況では禄に砲撃は出来ない。

 案の定、第一二駆逐隊はロシア駆逐艦の接近を許してしまう。


「第一二駆逐隊は撤退するように命令。第一一駆逐隊に援護を命令。皇海は旅順の内港へ砲撃を行え」


 ピンチになった明日香の第一二駆逐隊を助けると共に、砲撃を加えてくる旅順を黙らせるべく鯉之助は皇海に砲撃を命じた。

 射程二万を越える皇海の砲撃なら反撃を受けること無く、旅順へ攻撃を仕掛ける事が出来る。

 暫し砲撃を加えると、旅順からの砲撃は止んだ。


「旅順からの砲撃止みました」

「第一二駆逐隊はどうしている」


 矢継ぎ早に鯉之助が尋ねると見張員が双眼鏡を向けて報告した。


「敵駆逐艦および水雷艇に囲まれ、集中砲撃を受けています」


 幾ら大型駆逐艦でも、多数の敵に囲まれたら撃ちまくられ劣勢になる。

 戦意旺盛なのが明日香の良いところだが戦意過多で突出して撃ちまくられるのは樺太戦争の時から変わりない。

 たちまち明日香の式波に多数の命中弾が出る。

 豆鉄砲のような四七ミリや七六ミリ砲でも命中したら被害が大きい。


「皇海で援護しますか」

「無理だ近すぎる」


 沙織の提案を苦虫を噛みつぶすように鯉之助は却下した。

 強力な艦砲を持つ皇海だが、味方が至近距離にいる敵を撃つことは出来ない。味方に当ててしまう危険がある。

 接近すれば一五.二サンチ副砲で撃破できるが、接近しすぎるとロシア駆逐艦が持つ魚雷の餌食になる。

 幾ら防御力が強いと言っても弱い水線下を攻撃する魚雷を受ければ、沈没の危険があるし、損傷を受けたら修理のため長期の戦線離脱を余儀なくされる。

 不用意に接近するのは危険だった。


「第一一駆逐隊! 第一二駆逐隊の前に出ます!」


 だが鯉之助が躊躇している間に綾波を先頭に第一一駆逐隊が第一二駆逐隊とロシア駆逐艦の間に割り込む。

 第一二駆逐隊の盾となると共にロシア駆逐艦に猛烈な砲火を浴びせた。

 新たな敵にさすがのロシア駆逐艦と水雷艇も怯み離脱していく。

 しかし、反転間際に綾波に対して猛烈な砲火を浴びせた上に、魚雷を発射した。


「麗」


 綾波の被弾と魚雷の接近を見て思わず鯉之助は佐々木麗の名前を口に出してしまう。

 しかし、綾波は魚雷が接近すると魚雷に沿うように舵を切って併走し、そのままロシア駆逐艦から離脱する。

 そして第一二駆逐隊と合流するとそのまま皇海に向かって舵を切り合流してきた。

 第一一駆逐隊の援護もあり、ロシア駆逐艦は撤退、第一二駆逐隊も離脱に成功した。


「撤退していく駆逐艦に数斉射撃ち込んでおけ」


 追い打ちと襲われた腹いせを兼ねて鯉之助は、撤退する駆逐艦に向けて砲撃を命じた。


「勝てましたね」

「ああ」


 ひやりとする場面があったが、勝利と言って良かった。


「だが、被害が酷いな」


 敵の集中砲火を浴びた式波も、間に入って盾になった綾波も被弾箇所が多い。

 性格は正反対な二人なのに、戦い方は勇猛果敢というか蛮勇に近い。

 どうして幼馴染み女子二人はあんな戦い方をするのか、鯉之助には出会った頃からの謎だった。


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