第2話

子供の頃から、私は「集団」が好きではなかった。正確に言えば、女の子の集まりが苦手だった。誰かを敵に祭り上げ、みんなで悪口を言い合ってグループの結束を強めるーみんなにとても優しく接していたのに、私はたいてい、その「敵」に抜擢されるタイプだった。

新学期のクラス替えはとても憂鬱。

2人で行動できるバディが見つかれば一安心だが、大抵は仲良しと別れてしまった誰かの「片割れ」が、私の大切な相棒を奪い取ってしまう。。3人で仲良くできればよいのに。私はいつもそう思っていたが、どうにも女子に奇数は受け入れられにくいようだった。


そんな屈折した人間関係の中で、なんとか私はそれでもみんなに好かれようと頑張ってきた。

だから、特定の親友がいないのにもかかわらず、

わたしはいつも「優しい瑞稀ちゃん」として振る舞った。

そんな経験を大人になっても引きずっていた私は、女子グループに入ることができず、案の定、新しく派遣されたその会社でも孤立していた。


外見が良いことも女子から嫌われる一因になっているようだった。


いつもなら、もう行きたくないと思うところなのだが、

今回は不思議とそうは思わなかった。


彼がいるから。


オフィスはとても広く、同じフロアに100人ほどの人がいる。


それでも、わたしはいつも彼をすぐに見つけることができた。

彼が席の近くを通るたびに、なんとなく横目で彼の存在を感じる。それだけで1日が幸せになった。


インドとの会議を心待ちにした。


そんなある日のことだった。

オフィスで使っている社内用のチャットアプリでメッセージが届いた。


「澤村さん、お疲れさまです。月島です。

今少し、お時間よろしいですか?」


なんだろう。


不思議なもので、

素敵だなと思って日々眺めていた相手なのに

いざ話せるとなると、どう接して良いかわからなくなる。

「遠くから眺めるのがちょうどいい」的な心理が働いて、少し戸惑いながら返信をした。


「お疲れさまです。澤村です。

大丈夫ですよ。何でしょう?」


すぐに返信が来た。


「実は海外への報告書を英語にしていただきたくて、

申し訳ありませんが対応をお願いできますか?」


なんだ、依頼か。

ホッとしたようなガッカリしたような気持ちで私は依頼を受けた。


「承知いたしました。原文は日本語ですよね?そちらの内容を拝見してから、いつまでに提出できるかお返事させていただきます。」


「ありがとうございます。突然のご依頼で申し訳ありません。」


何の変哲もない、ただのやりとりだったけれど、

その日は空が明るく見えた。


そんな日常が続けば良いな。

そう思っていた。


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いつか、私を選んでね。 @tsukishima-kaede

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