第139話 ど、どうしてだー!?

「ただいまー。……って、えええ!?」


「あらあら」


 玄関の方から聞こえる死神さんとお義母さんの声。ですが、その姿は、僕には見えません。当然ですよね。だって、今、僕はテーブルに突っ伏しているのですから。


「おお。帰ったか、二人とも」


 お義父さんが、陽気に二人を迎えます。


「パ……お父さん、ただいま。って、そんなことはどうでもいいの! き、君、大丈夫? 何だか頭から湯気が出てるように見えるんだけど」


「し、死神さん。お、おかえりなさい」


「君、一体何があったの!?」


「な、何も、なかった、ですよ。……ハハハ」


「絶対何かあったんだー!?」


 テーブルに突っ伏す僕を、背中からギュッと抱きしめる死神さん。その温かさと甘い香りは、どこか懐かしさすら感じさせます。


「あなた、やりすぎちゃったのね」


「ふん! 質問を百個された程度で疲労困憊とは。そんなことで、娘のことを守り切れるのか?」


「あらあら。全く、いつまでたっても、あなたは子離れできないわねえ」


「子離れ? する必要がどこにある?」


 僕は、ゆっくりと体を起こします。僕の目に映ったのは、テーブルの向かい側で会話をするお義父さんとお義母さん。別に、特別な会話をしているというふうには見えません。ですが、二人の間には、不思議な温かさがあるように感じました。どうしてそんなことを感じてしまったのかは分かりませんが。


「…………パ……お父さん」


「どうした? 我が娘よ」


「嫌い」


「…………え?」


「嫌い!」


 部屋の中に響き渡る死神さんの声。死神さんのこんな大声を聞くのは初めてですね。


 死神さんの言葉に、お義父さんの顔がぐにゃりと歪んでいきます。そして……。


「ど、どうしてだー!?」


 今度は、お義父さんがテーブルに突っ伏してしまうのでした。

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