第128話 違う契約書?

「と、とにかく、その制度を使えば、また君と一緒にいられるって分かったんだ。それで、人間世界に干渉できない私に代わって、マ……お母さんにいろいろ頼んだんだけど……」


「……全く聞いてませんね、それ。しかも……」


「しかも?」


「……いや、何でもないです」


 僕は、ゆっくりと首を左右に振りました。


 僕の頭の中によみがえった記憶。僕に死ぬことを勧めるお義母さんの姿。死神による、死への誘惑。


 今になって思えば、あれは、娘を心配するお義母さんなりの最終確認だったのかもしれません。ただの人間である僕が、死神さんの思いをしっかりと理解できているのかどうかという。


 ……死神さんには、このことは黙っておこう。


「あ、そういえば、一応、お義母さんに契約書みたいなものを書かされたんですが。僕が死神世界に行くための手続きに必要って……」


「…………たぶん、というか絶対、君が書いたのは違う契約書だと思う」


「違う契約書?」


「うん」


 死神さんは、コクリと頷きました。


 一体、僕は、何の契約書を書いたというのでしょうか……?


「えっと……君が書いたのは……私たちが結婚するために必要な契約書……かな」


 …………


 …………


 説明もなしになんてもの書かせるんですか、お義母さん!

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