第112話 別に深い理由はないわよ

「じゃあ、私は帰るから」


「はい。今日はありがとうございました」


 あれからしばらくして。先輩は帰宅することとなりました。


「もしお姉さんが帰って来た時は、ちゃんと私にも報告しなさいよね」


「はい。分かってます。……あ、そうだ。死神さん、先輩とリベンジ戦ができないこと申し訳なく思ってたみたいです。手紙に書いてました」


「そう。別に、気にしなくても。……まあ、将棋好きのお姉さんらしいわね」


 先輩は、そう言って苦笑いを浮かべます。


 その時、ふと気になったことがありました。


「……先輩、死神さんのこと、どうしてまだ『お姉さん』って呼ぶんですか?」


 今日、僕は、死神さんの正体を先輩に打ち明けました。それすなわち、死神さんが僕の姉ではないということを、先輩は理解しているはずです。それなのに……。


「別に深い理由はないわよ。この呼び方で慣れちゃっただけ。急に呼び方変えるっていうのも、違和感あるしね」


「ああ。なるほど」


 確かに、いきなり人の呼び方を変えるのは抵抗がありますよね。僕も、これまで、先輩の前で死神さんのことを『姉さん』と呼んできましたが、違和感しかありませんでした。まあ、死神さんの正体を打ち明けたことで、その違和感からは解放されたのですが。


 ……こんな形で、解放されたくはなかったなあ。

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