第111話 ……それでも、かっこいいと思います

「……僕にできますかね?」


「何言ってるのよ。『できますか』じゃなくて『やる』の」


「……するべきこと、見逃さずにすみますかね?」


「ちゃんと前を見ていれば大丈夫よ。私が保証する」


 腕組みをしながら、ニヤリと笑う先輩。一体その自信はどこから来るのでしょうか。


 まあ、でも……。


「……ありがとうございます」


 僕は、先輩にペコリと頭を下げました。


 僕の心の中にあった黒いもの。それがほんの少しだけ無くなったような気がします。道を示してもらうというのは、こんなにも嬉しいことだったんですね。


「……どういたしまして。ま、困ったらいつでも私を頼りなさい」


 そう告げながら、先輩は、ドンッと自分の胸を叩きました。


「……今の先輩、すごくかっこいいです」


「ふっ、そうでしょう。これが先輩力ってやつよ。……っていうのは冗談で、本当は、昔、私が落ち込んでた時に、部長に言われた言葉をそのまま言ってるだけなんだけどね」


 先輩は、笑みを浮かべながらペロリと舌を出しました。まるで、いたずらが成功した後の子どものようです。


「……それでも、かっこいいと思います」


「な、なによ。今日はやけに素直に褒めてくれるじゃない。そんなに褒めても何も出ないわよ」


 先輩の顔には、ほんのり朱が差しています。そんな先輩を見て、僕はふふっと笑ってしまうのでした。

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