第101話 ……ご飯、食べますか?

 時刻はもう23時。いまだに死神さんは帰ってきません。


 テーブルの上には、死神さんのために用意した晩御飯の煮物が置かれています。お皿にかけられたラップには、無数の水滴。すでに煮物は冷めきっていることでしょう。


「……いつ帰ってくるのかな?」


 僕がそう呟いた時でした。


 ガチャリと玄関扉の開く音。「ただいま……」というか細い声。


 僕は、急いで玄関へ向かいました。僕の目に映ったもの。真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。綺麗な赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。


「死神さん! おかえりなさい!」


 それは、まさしく死神さんです。ですが、その顔は、とてもやつれていました。


「あ……。ごめんね。遅くなっちゃって……」


「いや、それはいいんですけど……。何かあったんですか?」


 僕の質問に、死神さんの肩がビクリと大きく跳ね上がります。


「…………」


「……何かあったんですね」


「…………」


 死神さんは、何も言ってはくれません。ゆっくりとうつむき、そのまま固まってしまいました。


「…………」


「…………」


 沈黙が続きます。


 死神さんに何があったのか問い詰めたい。できることなら、今すぐにでも死神さんの助けになりたい。そんな気持ちがムクムクと膨れ上がっていきます。ですが……。


「……ご飯、食べますか?」


 しばらくして、僕の口から飛び出したのは、そんな言葉でした。

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