第100話 …………何だか胸がざわざわする

 翌日。放課後。


「来ないわね。お姉さん」


「……ですね」


 僕と先輩は、将棋を指しながら死神さんが来るのを待っていました。ですが、いくら待っても死神さんは姿を見せません。


「あんた、お姉さんに連絡とかできるの?」


「いや、しに……姉は、携帯もスマホも持ってないんです」


「そっか……。まあ、お姉さんは社会人だし、仕事が長引いて来られないってこともあるわよね」


 そう言って、苦笑いを浮かべる先輩。


 先輩の言うことも分かります。ですが、本当にそうなのでしょうか。これまで、死神さんは、毎日決まった時間に部室を訪れていました。僕が先輩と出会い、将棋部に入部する前は、毎日決まった時間に帰宅していました。そんな死神さんが……。


 まあ、僕は死神業についてそれほど詳しく知っているわけではないので、仕事が長引くことはないとはっきり言うことはできないのですが。


 …………何だか胸がざわざわする。


 キーンコーンカーンコーン。


「……リベンジはまた明日かしらね」


 その言葉を合図に、僕と先輩は、帰り支度を始めました。


「…………」


「…………」


 お互いに無言。どこか気まずい雰囲気。


 もしかしたら、先輩も僕と同じなのかもしれません。言いようのない、胸のざわめきを感じているのかもしれません。


「じゃあ、私、部室の鍵を返してくるから。また明日ね」


「……はい」


 気まずい雰囲気を抱えたまま、僕たちは別れるのでした。

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