第95話 ……僕たちは今何を見せられているのでしょうか

 なでなで。なでなで。


「……部長……恥ずかしい……です」


 なでなで。なでなで。


「フフ。やっぱり君は可愛いね」


 なでなで。なでなで。


「ぶ、ぶちょー……」


 ……僕たちは今何を見せられているのでしょうか。


 歯の浮くようなセリフを吐きながら先輩を撫でる部長さん。部長さんに撫でられ、トロンとした表情を浮かべる先輩。二人の周りには、ピンク色のオーラが漂っています。僕と死神さんのことなど蚊帳の外。完全なる二人だけの世界が構築されていました。


「そうだ。君、今日はすごくおしゃれしてるね。ボク、思わず見とれちゃったよ」


「あ、ありがとうございます。……えへへ」


 ……本当に、何を見せられているのでしょうか。あと、目の前にいる先輩は、本当に先輩なのでしょうか。いつもの強気な先輩はどこへ。


「……ねえ」


 不意に、死神さんが小声で僕に話しかけてきました。


「何ですか?」


「えっと……なんかごめん。軽い気持ちで、『先輩ちゃんに挨拶しに行こう!』って提案しちゃって。まさか、こんな甘々展開になっちゃうなんて思わなかったよ」


「別にいいですよ。まあ、胸やけがすごいですけど。ハハハ」


「ハハハ」


 僕たちの口から漏れるのは、乾いた笑い声。一体だれが予想できたでしょうか。イケメン部長さん(女性)の登場、先輩のキャラ崩壊、そして、砂糖を吐いてしまうような甘ったるい世界の構築を。


「……行きましょうか」


「……そうだね。二人の邪魔しちゃ悪いし」


 僕と死神さんは、二人に気付かれないように、こっそりとその場を後にしました。

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