第94話 ぶ、部長!

「ぶ、部長!」


 先輩が、女性に向かって叫びました。


 先輩の「部長」という言葉。僕には聞き覚えがありました。以前、先輩が、自分の過去を語ってくれた時に出てきた言葉です。まさか、目の前にいるこのイケメン女性が……。


「えっと……」


 部長さんは、僕と死神さんの顔を交互に見つめます。そういえば、まだ挨拶もしていませんでしたね。いろいろ呆気にとられすぎていました。


「初めまして。僕は……」


「こ、この二人は、私の将棋仲間なんです! こっちは私の後輩で、こっちは後輩のお姉さん。後輩は将棋部の新しい部員です。お姉さんは部員じゃないですけど、外部コーチってことで将棋部に来てくれてます。ほら、二人とも。早く部長に挨拶して!」


 僕の自己紹介を遮り、とんでもない早口で僕と死神さんの紹介をする先輩。おそらく、部長さんを前にしてこれ以上ないほど慌てているのでしょう。


「よ、よろしくお願いします、部長さん」


「部長ちゃん、よろしくだよー」


 僕と死神さんは、部長さんにペコリと頭を下げました。


「こちらこそよろしくね。まあ、ボクはもう卒業しちゃってるから部長じゃないけど」


 僕たちに向かって微笑む部長さん。キラキラと輝くその笑顔に、僕の心臓が大きく跳ねます。これがイケメンオーラというやつでしょうか。もしかしたら、先輩も、この笑顔にやられてしまったのかもしれません。


「しかし、そっか。ボクのいた将棋部にも新しい仲間が増えたんだね。よかった」


「……私、部長がいなくなってから頑張ったんですよ。『将棋部を任せるぞ』っていう部長の言葉、今でも覚えてます」


「……重荷じゃなかったかな?」


「と、とんでもないです! 部長は、私に居場所をくれました。そんな部長の思いに応えることが、重荷なわけないじゃないですか!」


「フフ。ありがとう。そう言ってくれると、ボクも嬉しいよ」


 部長さんは、先輩に向かってゆっくりとその手を伸ばします。そして……。

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