第75話 あの子とじゃ不満?

「…………」


「あら?」


「…………」


「あらあら?」


「……は! い、一瞬意識が……」


 思考が正常に機能するようになるまで、かなりの時間がかかりました。いや、実際は数秒なのでしょうが、体感的には数十分くらいかかったように思います。


「そんなに驚くようなこと言ったかしら?」


 不思議そうに首を傾げるお義母さん。


「お、驚きますよ! いきなり孫だなんて、そんな……」


「もしかして、あの子とじゃ不満?」


「ふ、不満とかじゃなくて。段階が飛び過ぎてることに困惑してるんですよ」


 実際、僕と死神さんは恋人でも何でもないのです。それなのに、子供をつくる云々なんて考えられるわけがありません。確かに、死神さんと一緒にいると楽しいですし、同棲生活も毎日すごく充実してますけど。ちゃんとした順序というものが……。


「ふむ。不満ではない……と」


 お義母さんはウンウンと何度も頷きます。本当に分かっているのかとても怪しいです。おそらく、死神さんのマイペースなところは、お義母さんに似たのでしょう。間違いありません。


「と、とにかくです。孫とかそういう話は、ちょっと……」


「そう。じゃあ、少し話題を変えようかしら」


「お願いします」


 僕は、そう言ってペコリと頭を下げます。さすがにこの話題を続けられたのでは、僕の精神が持ちませんからね。


 お義母さんは、腕組みをしながら何かを考え始めました。次の話題を探しているのか、それとも、本当に聞きたい話を切り出すかどうか迷っているのか。そのどちらなのかは、僕には分かりません。


「……あなたは、あの子のこと、どう思ってるの?」


 しばらくして、お義母さんの口から飛び出したのは、そんな質問でした。

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