第66話 …………なんだか、すごくモヤッとする
パチ……パチ……パチ……。
「負けました……うう……」
絶えず聞こえ続ける駒音。それに交じって、聞き覚えのある声が僕の耳に届きました。
……死神さん、負けちゃったんだ。
どうやら、会場内で最初に決着がついたのが、死神さんの対局のようです。本当なら、今すぐにでも死神さんの所に行って声をかけてあげたいのですが、まだ僕の方は対局が終わっていません。自分の対局が終わっていないのに、他の人に声をかけに行くなんてマナー違反です。
「ここを……すれば……こうなって……」
「な、なるほどー」
そんな会話声につられて、僕は、死神さんがいる方向に顔を向けました。
どうやら死神さんは感想戦をしているようです。感想戦とは、対局の良かったところや悪かったところ、自分の指した手の意図などを言い合うこと。これを行わなければ将棋は上達しないと言っても過言ではありません。死神さんの対戦相手である若い男性は、盤上の駒を移動させながら、いろいろな説明をしています。
「それで……」
「ふむふむ」
「こっちに移動させると……」
「そっかー。全然気付かなかったよ。君、すごいね!」
死神さんは、男性に向かって微笑みます。男性は、「いえいえ、そんな」と言いながら、少し照れたように首をポリポリと掻いていました。
…………なんだか、すごくモヤッとする。
パチ!
その音に、ハッと我に返る僕。顔を盤上に戻すと、局面が変化しています。僕の対戦相手であるおじさんが、駒を一つ動かしたのです。
いけない、いけない。集中しないと。
一応、優勢なのは僕。ですが、気を抜いてはいけません。僕が出場しているクラスはS級。いきなりこちらの思ってもみない逆転手を指されてもおかしくはないのですから。
僕は、ゆっくりと深呼吸を二回。数分後、盤上の駒に手を伸ばしました。
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