第36話 ちゃんとご飯全部食べてからです

「……私、君の負担になっちゃってる」


「負担?」


「君の大切な人になるって決めたのに……」


 死神さんは、小さくそう呟きました。箸を茶碗の上にゆっくりと置き、テーブルの上に視線を落とします。


 僕たちの間を支配する居心地の悪い沈黙。正直なところ、部活動には少し未練があるというくらいで、僕はそれほど気にしてはいません。ですが、死神さんにとっては気になって仕方がないことなのでしょう。もしここで、僕が「気にしてませんよ」と言っても、おそらく、ただ無理をしているようにしか受け取られないに違いありません。だから……。


「……死神さん。僕、今日は甘いものが食べたい気分なんですよね。食事が終わったら、コンビニでシュークリームでも買ってきてもらっていいですか?」


「え? ああ、うん。別にいいけど……」


「もちろん、死神さんも何か欲しいものがあれば買ってください。これ、お金です」


 そう告げて、僕は財布から五百円玉を取り出し、テーブルの上に置きます。


 その瞬間、死神さんの目がキラキラと輝き始めました。


「い、いいの!?」


「はい」


「三百円くらいするパフェとか買っても……」


「いいですよ」


「や、やったー!」


 両手を上げて喜ぶ死神さん。その顔には、百点満点以上の笑顔が浮かんでいました。


「じゃあ、早速……」


「ちゃんとご飯全部食べてからです」


「は! そうだった。まだ食べてる途中だった」


 ご飯とおかずを勢いよく口に詰め込む死神さん。途中、喉を詰まらせたようで、胸のあたりをドンドンと叩いていました。お茶を飲み、「ふー」と一息。


 やっぱり、死神さんには元気な姿が一番よく似合います。

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